フェンダー・ジャズマスターは、しばしば「一癖あって取り回しが難しいギター」だと言及されていますよね。
たしかに「トラディショナル/ヴィンテージ仕様に忠実なジャズマスター」だと扱いに苦労する側面があることは事実。本記事ではまずその「欠点」について楽器店員視点で解説してみたいと思います。
一方、現行のフェンダー・スクワイヤー製品だと、「弦落ち対策など現代的なエッセンスを取り入れたジャズマスター」が製作されています。
ギター初心者・中級者の方におすすめしやすいジャズマスターという観点からの人気機種をご紹介しているのであわせて参考にしてみてください。
なるべく予算も抑え気味で、2023年5月現在の税込価格3万円前後~15万円前後を目安にしてあるよ。
ギター初心者がジャズマスターを選ぶときの注意点
さて、「ギター初心者がジャズマスターを選ぶ際に気を付けておいたほうがいいこと」についての話です。
予備知識として、Fender Jazzmasterが登場したのは1958年のこと。60年以上経過しているので、その間にエレキギターの演奏スタイルや弦の太さ(ゲージ)も変化しています。
本来「欠点」とか「欠陥」と呼ぶのはかわいそうですが、以下のような「ジャズマスターの弱点」は個性として把握しておきましょう。
フローティングトレモロはブリッジで弦がずれやすい(弦落ち)
まずはジャズマスターでおなじみの弦落ち問題ですね。
ジャズマスターの伝統的なブリッジは「フローティングトレモロ」「スパイラルサドル」を組み合わせたもの。この名前だけだとピンとこないかと思いますので、下記の写真をご覧ください。
設計当時、アームを使ったヴィブラートが既存のトレモロ機構より滑らかな音程変化になるように開発されました。
駒(サドル)が乗っている土台は軸部分に遊びがあり、ボディ本体と固定されていないのが特徴。サドルに対する弦の進入角度も浅めです。
これがどうしても弦落ちの原因につながりやすい欠点といえるでしょう。
そもそもジャズマスター発売当時は、現代より太い弦を張ることが一般的でした。現代のように細いエレキギター弦だとテンションが不足しがちで「ブリッジが共振したり、強くストロークしたときに弦が脱落しやすい」のは避けて通れない仕様となっています。
演奏中に「急に音が伸びなくなる、チューニングがおかしくなる」と困ってしまうよね。
この問題を解決するために、ジャズマスターの「サドルやブリッジを交換したり、バズストップバーを取り付ける」など、別売パーツへの交換・改造するのはポピュラーです。
ただ、ギター初心者の方だと、最初から楽器をカスタマイズすることを不安に感じる方は多いのではないでしょうか。
「フローティングトレモロ」「スパイラルサドル」は、音色・演奏性含めジャズマスターの個性なのですが、近年はあらかじめブリッジ周りの仕様をアレンジして、弦落ち対策を講じた状態で製作出荷されているモデルが増えています。
本記事中盤以降で取り上げる製品に関しては、「弦落ち対策のカスタマイズを行わなくても扱いやすい機種」に絞ってご紹介してみました。
プリセット回路付きの少し複雑なコントロールは慣れが必要
それから、ジャズマスターで特徴的なアッセンブリについてもおさらいしておきます。
ジャズマスター特有のコントロール系統でスタンダードなのが、正面から向かって左上部分に「プリセット・トーンサーキット」が搭載されてること。
フロントピックアップ側固定でボリューム/トーンをワンタッチで切り替えることが配線なのですが、その音色と操作性に意外と癖があります。
アッセンブリ自体はジャズマスター特有の音色と直結している側面もあり、必ずしも「欠点」というわけではないです。
しかし、不慣れなうちプリセットスイッチやホイールノブを気付かない間に動かしてしまい、ライブ中に焦るというのは結構よくあるパターンです。
夢中で演奏しているとストロークの右手が引っかかっちゃうことがあるよ。
以下では「プリセット回路が付いているモデル」「付いていないモデル」の両方をご紹介しているので、ルックスの好みも含め比較する際の注目ポイントにしてみてください。
スクワイヤー版のジャズマスターなら予算3万円前後から選べる
ここからはギター初心者向けのジャズマスター選びとして具体的なモデル探しに入っていきます。
フェンダー直系ブランドのSquier by Fender製品は、やはりギター初心者~中級者視点でストレスなく演奏できるように配慮したモデルが多いです。
カラーバリエーションも豊富で「なるべく安い価格帯のジャズマスターを探したい」ときに以下の機種を順番にチェックしてみましょう。
昨年はスクワイヤー現行体制の40周年を記念してSquier 40th Anniversary Jazzmasterとして、Gold Edition、Vintage Editionのリリースが行われました。
ビギナー向けのアフィニティ・ジャズマスターHHはお手頃価格だが品薄
最初の製品は、2017年に発売されたアフィニティ・ジャズマスターHHで、型番末尾の「HH」がマイクの種類を表しています。
先日までは「安いジャズマスター」の代表機種だったのですが、後述する新バージョンのアフィニティ・ジャズマスターが発表されたため、最近は新品で探すのが大変になってきたのでご注意ください。
「ハムバッカー・ピックアップ」といって、標準的なシングルコイル・ピックアップよりも出力が高いので、太く歪(ひず)ませた音作りに対応しやすい特性ですね。
「アークティックホワイトとブラック」の2色とも黒のピックガードで統一。
ボリュームとトーン、ピックアップセレクターのみ、きわめてシンプルなコントロール構成なので初心者でも直感的に操作可能でしょう。
弦はボディの背面から通すように、シンプルな構造のハードテイルブリッジになっているのが大きな特徴です。
トレモロアームが使えないかわりに、セットアップやチューニング面での悩みも少ないのがおすすめ。
アフィニティ・ジャズマスターの最新版が2021年9月に発売
次はスクワイヤー(スクワイア)製品の中でも、上述したHHモデルとは性格が異なる2021年アップデート版のアフィニティ・ジャズマスターをご覧ください。
2021年9月から国内出荷が始まり、「バーガンディミスト(紫)とレイクプラシッドブルー(青)」のカラーバリエーション。
独自開発「シングルコイル・ジャズマスターピックアップ」が搭載され、シンプルな操作系統はそのままに、よりオーセンティックな外観とサウンドに近づきました。
ヘッドやネック周りに手が加えられている他、ブリッジがストラトキャスターに近いシンクロナイズドトレモロ仕様を採用しているのもポイントです。
モダン路線コンテンポラリー・アクティブジャズマスターが斬新
それから、下記は2018年に発表されたコンテンポラリー・ジャズマスターですね。今回取り上げた中で唯一アクティブピックアップ仕様。
ボディ背面に9V乾電池を入れるタイプのため、定期的にバッテリー交換は必要になりますが、ノイズを抑えながら高出力で整った音色を実現しています。
型番にある「HH」はハムバッカー・ピックアップの意味で、「ST」のほうはストップテイルの略称です。
トレモロユニットが付いておらず、ブリッジのテイルピースとサドルが独立して固定されているのが写真で分かりますね。弦振動がダイレクトに伝わってくる感触です。
発売当初は「グラファイトメタリックとサーフパール」が登場し、後に「シェルピンクパールとサンセットメタリック」がラインナップされました。
金属パーツをブラッククローム仕上げで統一したスタイリッシュな佇まいになっています。
ボディ本体とヘッドの色を合わせたフィニッシュを「マッチングヘッド」と呼ぶよ。
クラシックバイブ60sジャズマスターもバレルサドルなのが嬉しい
続いて、クラシックヴァイヴ・ジャズマスターは、「プリセットサーキット付き」で1960年代のヴィンテージに寄せたモデルになっています。
旧製品「Vintage Modified Jazzmaster」の生産完了と前後する形で、2019年のシリーズ再編からラインナップへ加わりました。
ピックアップ出力もオールド志向のフェンダーデザインで、「古き良きクラシック・サウンド」を再現したものです。
CVシリーズはブリッジサドルを「ムスタングモデルのようなバレルタイプ」にすることで「弦落ち」対策を図っています。
ヴィンテージテイストとはいえ、指板やフレットサイズなどは演奏にストレスを感じさせないスペックを採用しているのが本製品の魅力。
ポプラ材ボディは「サンバースト、オリンピックホワイト、ソニックブルー」と定番の配色です。
Squierの40周年モデルとして二種類のジャズマスターが2022年に発売
ここで2022年に40周年モデルとして登場したジャズマスターを二種類ピックアップしましょう。
それぞれゴールドエディション、ヴィンテージエディションの両方とも「ムスタングスタイルのバレルサドルで弦落ち対策」されています。
金色のアノダイズド・ピックガードが全機種に共通で、ゴールドエディションのほうがその名の通り、金属パーツまでゴールド・ハードウェアで統一。
ボディ本体色は「レイクプラシッドブルーかオリンピックホワイト」が選べて、セルバインディング付きのネック、ポジションマークもブロックマークという高級感ある華やかなモデルですね。
ヴィンテージエディションの方はサテンウレタンのボディフィニッシュで、クロームハードウェアにエイジングが施されていること、さらにメイプルネック(メイプル指板)を組み合わせているのが珍しいところです。
フェンダー版のジャズマスターなら予算7万円前後から選べる
本家FENDERブランドになると、予算もSQUIERより数万円ほど上乗せが必要ですが、「ギター初心者だけでなく、二本目のギターとしてもおすすめしやすい」グレードになってきます。
今回は予算を抑えるためにUSA製品を割愛。メキシコ製のフェンダーであったり、一昔前までフェンダージャパン(フェンジャパ)と呼ばれていた日本製モデルのジャズマスターから候補を挙げてみました。
定番人気のプレーヤー・ジャズマスターはブリッジ位置が改善
フェンダーブランドで現状最も安い価格設定なのがプレーヤー・ジャズマスターからチェックしてみましょう。2018年からメキシコ・エンセナダ工場で製作されています。
以前であれば「Fender Mexico」と呼ばれていましたが、最近はシンプルに「Fender」と表記されています。
サンバースト・フィニッシュの他に「バタークリーム、ポーラホワイト、カプリオレンジ」などカラーバリエーションもユニーク。
ピックアップカバー無しのハムバッカー仕様で、ヴィンテージフィールを意識しつつも明るく抜けの良いアウトプットが際立ちます。
じつは、ブリッジプレートを埋め込む位置を変更されていることに気付きましたでしょうか。サドルに対して適正なテンションがかかるよう配慮して設計されている部分です。
「トーンのつまみを引き上げる(プッシュプル)」と、ブリッジ側のピックアップが「コイルスプリット」される配線を採用。
エッジの効いたシングルコイル・ピックアップのような音作りもできるというのがPlayer Jazzmasterの大きな強みです。
ヴィンテラ・ジャズマスターはモディファイドタイプが即戦力の仕様
同じくメキシコ製のジャズマスターに、「ヴィンテラシリーズ・60sジャズマスター」のバリエーションで「モディファイド」という製品があります。
ヴィンテラシリーズ自体はヴィンテージリイシュー系の正統派なのですが、MODIFIEDは「改造された」という意味です。
一見する限りではプリセットトーンサーキットまで付いたオールド風のジャズマスに見えますが、ブリッジがAdjusto-maticブリッジになっていますね。
ピックアップの出力もヴィンテラシリーズのレギュラーモデルより出力を高めに調整されているよ。
無印のヴィンテラ60sジャズマスターと比較すると、スリムなモダンCシェイプネックが採用されていたり、フレットサイズなどの細かいところでもアレンジが施されている製品です。
遊び心が満載のノヴェンタ・ジャズマスターは期間限定モデル
このあたりで少々変化球を挟んでおきましょう、フェンダー・ノヴェンタ・ジャズマスターというリミテッドモデルです。
プレーヤーシリーズやヴィンテラシリーズのジャズマスター同様にエンセナダ工場製のモデルで2021年4月から期間限定で販売されるようになりました。
「noventa」にはスペイン語で「90」の意味がありますが、搭載されたNoventa Single-Coilが「ギブソンのP90ピックアップ」を彷彿させます。
ノヴェンタシリーズは、ストラトキャスターやテレキャスターのバリエーションもあります。
特にジャズマスターに関してはファイアーバード(Non Reverse Firebird)を彷彿させるいわくつきの意匠といえるでしょう。ピックアップセレクターも面白いですね。
ブリッジが「フローティングトレモロとAdjusto-Maticブリッジの組み合わせ」なので、弦落ち対策も心配ありません。
「フィエスタレッド、サーフグリーン、ウォルナット」の3色展開でそれぞれ雰囲気はがらっと変わってきます。
ヴィンテージモダン路線の第2世代MIJハイブリッド・ジャズマスターが日本製
続いて、フェンダー日本製モデル、メイドインジャパン・ハイブリッド・ジャズマスターを見てみましょう。
2017年に発売された同シリーズの第二世代として、2021年3月に発売されたMIJハイブリッド2ジャズマスターです。
「モダンCシェイプ」という少し平たい印象を受けるネックシェイプで、特筆すべきは今作から22フレット仕様になっていること。フィンガリング(運指)や演奏できるフレーズの自由度がぐっと高まります。
ネック裏もサラっとしていて弾きやすいね。じつはペグにロック機構がついていて弦交換も簡単、タイトな鳴り感が評判だよ。
ジャズマスターというと、やや「甘い音色」をイメージすると思いますが、新開発のピックアップ「Hybrid II Custom Voiced Single Coil」はレンジ感の広いサウンドで音抜けの良さも絶品です。
「モデナレッド(赤)やフォレストブルー(青)」の鮮やかな発色と出音のイメージもマッチしており、ジャズマスターとしては珍しいメイプル指板が選べるのも見逃せないところ。
ブリッジサドルは旧モデルからマイナーチェンジされましたが、弦落ち対策済みのバレル形状で、ジャックやキャパシターなどの電装系もアップデートされた満足度の高い一本。
フレットが「ミディアムジャンボ仕様→ナロートール仕様」になったこともアタックレスポンスの良さに貢献している側面があるでしょう。
MIJジュニアコレクション・ジャズマスターは大人にもおすすめ
最後に2022年3月24日から発売されたFender Made in Japan Junior Collectionをおすすめしておきましょう。
同シリーズからはジャズマスター以外に、ストラトキャスター、テレキャスター、ジャズベースも出ています。
「ジュニアコレクション」という響きから「子ども向け製品?」と考えがちですが、ボディサイズがレギュラーサイズの約94%なので極端に小さい設計ではありません。
楽器の作り的にも決して廉価版という位置付けではなく、大人の方でも安心して選べるモデル。24インチ・ショートスケールなので、左手の感覚はジャガーやムスタングに通じる部分があります。
「3カラーサンバースト、サテンダフネブルー、サテンヴィンテージホワイト、サテンダフネブルー、ブラック、サテンシェルピンク」という豊富なカラーバリエーションからも今期の注力製品であることが分かるでしょう。
バレルサドルになっているので、初期出荷時の弦(.009-.042)から一段階少し太くするとより安定しやすいですね。プリセットサーキットなしのシンプルなコントロールが採用されました。
まとめ
以上、今回はあえて「Made in Japan TraditionalやMade in Japan Heritage」といったヴィンテージ系を割愛してプレイアビリティ重視のジャズマスター、かつお値段もお手頃なものに絞って整理してみました。
さらにモダンなスペックまで視野を広げるのであれば、MADE IN JAPAN ELEMENTAL JAZZMASTERも候補に挙げられます。下記のNimbus Whiteは水のエレメントから雪雲をモチーフとしたフィニッシュなんだそうです。
予算15万円~30万円くらいになると、USA製のAmerican Performer、American Professional II、American Ultraなどのジャズマスターが視野に入ってくるでしょう。
以上、最後までご覧いただきありがとうございました。