世の中に数多あるアコースティックギターの中でも、ギブソンとエピフォンのハミングバードは往年の人気機種です。
そしてハミングバードの中には、ギター初心者向けの廉価版から玄人向けの最高峰グレードまで、製品の種類・価格帯も様々なバリエーションがあります。
本記事では同じハミングバードの中でもモデルごとに異なる「ギターの特徴や違い」を元楽器店員視点で解説していきたいと思います。
ギブソン系のアコースティックギターでは、J-45に代表されるなで肩のラウンドショルダーモデル(画像左)が有名です。
それに対峙するもう一つの定番が、ハミングバードのように、やや角張ったスクエアショルダーモデル(画像右)となっています。
弾き語りや歌モノの伴奏、ロック系のギタリストに愛用者が多いよね。
以下で2024年1月現在、GibsonとEpiphoneのHummingbirdで入手可能な最新ラインナップの特徴をチェックしていきましょう。
ハミングバードの特徴、ダブとの違い|ギターの基礎知識
ハミングバードの特徴を予習するのに、少しだけギブソンのアコギの歴史を振り返ります。
もともとハミングバードは1960年当時、Gibsonがスクウェアショルダーデザインを初めて正式採用したフラットトップギター。それはJ-200モデルに次ぐ高級なモデルでした。
平行四辺形を隣り合わせに並べた指板のポジションマークが特徴的で「Double Parallelogram(ダブルパラレログラム)」インレイと呼ばれます。
モデル名の表記は「Humming Bird」と区切らず、真ん中にスペースを入れないで綴るのが一般的。高速で羽ばたくホバリングが有名な「ハチドリ」のことですね。
ギターのピックガードには、蝶々と、ハチドリがトランペットフラワーの蜜を吸っている絵柄が描かれているよ。
混同されやすいところでは、ピックガードに鳩(ハト)がデザインされたDOVE(ダヴ)があります。
歴史的にギブソンDOVEのほうは1962年にリリースされた後発モデル。ピックガードだけでなくブリッジも形状が違いますね。
ネック周りの部分に着目すると、弦長24.75インチを基本とするハミングバードと異なり、25.5インチのロングスケールとなっているのが特徴でしょう。
ハミングバードは通常マホガニー材のボディであるのに対して、ダブは硬質なメイプル材のボディが標準仕様となっています。
DOVEのほうが甘さ控えめでブライトなサウンドになりやすい傾向があるよね。
エピフォン版ハミングバードの種類とモデルごとの違い
それでは初心者から中級者向けのアコギで定番のエピフォンブランドから見てみましょう。
ハミングバードのギターデザインはオリジナルを踏襲していますが、ギブソン本家のハミングバードと違い、海外工場で生産を効率化(量産)することで販売価格が抑えられています。
過去にいくつかのバリエーションが製作されてきましたが、新品のエピフォン現行機種で選ぶならハミングバードは2製品。
「モダンアコースティック・コレクション版」と「インスパイアドバイギブソン・コレクション版」を順番にチェックしてみましょう。
Epiphoneで最もお手頃なHummingbird Studio (Hummingbird Pro)
まずは最もお手頃なモダンアコースティックコレクションのハミングバードスタジオ(旧名称:ハミングバードプロ)です。
2012年に発表されたロングセラーモデルで、エピフォンのアコギで楽器を始める「エントリークラスのプレーヤー向け」に高評価を獲得しています。
赤味がほどよく退色した状態を再現した「フェイデッドチェリー」がレギュラーカラーです。
現状、こちらのモデルにはハミングバードプロ(Hummingbird Pro)という旧名称、ハミングバードスタジオ(Hummingbird Studio)という新名称の両方の表記が見受けられます。
以前は白や黒、青など限定カラーもあったんだけど、最近は手に入りにくいよ。
グローバーロトマチックタイプのペグ(金属ボタンの糸巻)でチューニングが安定。ナット幅1.69インチ(約43ミリ)のスリムテーパーDシェイプネックは手の小さい方にも良い評判ですね。
ボディサイドバックのマホガニー材は合板(ごうはん)でコストを抑えつつ、サウンドへの影響が顕著なボディトップのみ単板(たんばん)スプルース材にて製作。
ギター初心者にお求めやすい価格帯でありながら、アンプに繋げられる「エレアコ」仕様なのも大きな魅力でしょう。
ピックアップ(マイク)の種類は、製造時期によってShadow(シャドウ)製とFishman(フィッシュマン)製が存在しているので細部が気になるようであれば事前に確認しておきましょう。
Epiphone上位モデルの新製品Inspired by Gibson Hummingbird
次は2020年11月から国内発売されているインスパイアドバイギブソン・コレクションのハミングバードです。
こちらのモデルはエピフォンのアコースティックギターで上位グレードにあたるMasterbilt(マスタービルト)シリーズとして取り扱われています。(※スペルはbuiltではありません)
ボディのマホガニー材およびシトカスプルース材がいずれも一枚板で製作されるオール単板仕様で、何と言っても力強くリッチな広がりのある音色が人気です。
「エイジド・チェリーサンバースト、エイジド・アンティークナチュラル」の2色とも少し光沢を抑えた質感の塗装なので、写真で見る以上に風格がありますね。
マスタービルトシリーズにはハミングバードの「12弦モデル」も出ているので、通常の6弦仕様と間違えないように注意しておきましょう。
前述のHummingbird Pro/Studioと比較すると、ナット幅や弦長は共通ですが、やや丸みを帯びたラウンデッドCシェイプのネックグリップがコシのある音色に貢献している印象でした。
「エピフォン版の細長いヘッド形状」をギブソン本家に近づけたアップデートが施されており、「牛骨ナット・サドル、マザーオブパール・インレイ」など細部の素材にもこだわっていますね。
ゴールドプレートのクルーソンスタイルペグがかっこいい。
本製品はフィッシュマンのSonicore(ソニトーン)アンダーサドルピックアップ、Sonitone(ソニコア)プリアンプによるエレアコ仕様。
ボリューム/トーン調整ノブは、アコギとしての生音や外観を損なわないようサウンドホール側面に配置されているというのも好評です。
ギブソン版ハミングバードの種類とモデルごとの違い
ここから先は、ギブソン版のハミングバードの特徴と違いを見ていきます。
ギブソンのアコースティックギター製品は、1980年代末からアメリカ北部モンタナ州のボーズマン工場が生産拠点。2021年には工場の増床・増産がニュースになりました。
現在、レギュラーラインナップのハミングバードでは、Hummingbird OriginalとHummingbird Standardの二機種が代表格。さらに2022年10月にHummingbird Fadedが発売されました。
今回は「Hummingbird StudioやHummingbird Sustainable(生産終了)」や、ハミングバード・フェイデッドと同時期にリリースされた「Generation CollectionのG-Bird」などの派生モデルは割愛して、王道のハミングバードモデルに絞ってチェックしていきましょう。
キーストンペグ仕様のヴィンテージスタイルGibson Hummingbird Original
2020年から刷新された「オリジナルアコースティック・コレクション」のハミングバードオリジナルでは、やや淡いヘリテイジチェリーサンバーストと、美しいアンティークナチュラルが登場しました。
ボディやネックを縁取る「バインディング」まで少し飴色を帯びたアンティーク調となっています。
本製品は旧来のStandardモデルと異なり、クルーソンスタイルのペグで、ピックガードの絵柄もエングレイブ(彫り込み)方式が採用されていることが大きな特徴でしょう。
職人の丁寧な手作業による「トラディショナル・ハンドスキャロップドXブレーシング」を採用しており、軽やかさと力強さを兼ね備えたバランスの良い生鳴りが人気です。
端的に「60年代初頭のヴィンテージ・リイシューモデル」という観点で選ぶなら、本製品もしくは後述するフェイデッドシリーズ、カスタムショップ製品が有力候補に挙がりますね。
ギブソン定番となったL.R.Baggs VTCエレメントピックアップのおかげでエレアコとしても即戦力だね。
グローバーペグ仕様のスタンダードモデルGibson Hummingbird Standard
続いて、2021年版からの「モダンアコースティック・コレクション」のハミングバードスタンダードに注目してみましょう。
2020年の段階では、シンプルに「Hummingbird」というだけの型番でしたが、直近ではモデル名に「Standard」を付くけるようになりました。
チェリー系のイメージが先行するハミングバードですが、こちらは「ヴィンテージサンバースト」仕上げですね。ハンドスプレーで塗装されているので実物をよく見比べると、個体ごとにグラデーションの質感がずいぶん変わってきます。
また、近くで見ないと分かりにくいですが、ピックガードの絵柄が彫り込みではなく内層に描かれているという違いもあります。
本製品はキドニーボタンのグローバーロトマチックペグを搭載しているので、どちらかといえばタイトで伸びやかなサスティーンに聞こえる傾向です。
Original版と同様にピックアップにはアンダーサドルのL.R.Baggs Element VTCが備え付けられているのでライブやレコーディングで重宝してくれることでしょう。
スタンダードと銘打たれてるだけあって、汎用性が高く扱いやすいモデルだね。
2022年10月から発売された新シリーズGibson Hummingbird Faded
そして次にご紹介するのが2022年10月からの新製品「ハミングバード・フェイデッド」です。
カテゴリとしては「オリジナルアコースティック・コレクション」なので「ハミングバード・オリジナル」側に近い分類となっています。
スペック面でキーストン・チューナー、ボーン素材のナット/サドル。ピックアップにL.R.Baggs Element VTCを標準搭載したエレアコ仕様であることなど、共通している要素が多いですね。
職人の丁寧な手作業による「トラディショナル・ハンドスキャロップドXブレーシング」を採用していることも「ハミングバード・オリジナル」と同様の方向性です。
フェイデッド仕上げというのはサテン調で薄めの塗装を指しており、ボディバックも明るめになっているので既存モデルとは雰囲気が異なってきます。
特に「ハミングバード・フェイデッド」の場合は、チェリーがラインナップされているオリジナル、サンバーストがラインナップされているサンバーストと異なり、選べるカラーがナチュラルのみ。
値段はオリジナル/スタンダードよりお手頃になっていますので、見比べ・聞き比べ・弾き比べしてみましょう。
カスタムショップ版ハミングバードの種類とモデルごとの違い
さて、いよいよラインナップ最高峰にあたるギブソンモンタナ・カスタムショップ製品のハミングバードについてです。
木材の厳選・少数精鋭による生産体制の都合などから、どうしても市場流通しているギターの本数自体が少なくなっているのでご注意ください。
ハミングバードに関しては、Custom Shopモデルの中で「ヒストリックコレクション」「モダンコレクション」にシリーズが細分化されており、それぞれのハミングバードがラインナップされています。順番にご紹介していきましょう。
憧れのヒスコレモデルなら1960 Hummingbird Fixed / Adjustable
現行の「カスタムショップ・ヒストリックコレクション」では、1960年に発売された初期仕様を復刻したハミングバードが製作されています。
カラー表記は「ヘリテイジチェリーサンバースト」ですが、レギュラーモデルの色味とはずいぶん違う佇まいなことにお気付きでしょうか。
薄く吹いたラッカー塗装でオールドの質感を追求したVOS(Vintage Original Spec)仕上げかつ、ピックアップの付いていない純アコースティック仕様です。
本製品では、ボディトップのシトカスプルース材に施されたThermally Aged(サーマリーエイジド)処理が注目したいポイント。
これは酸素・湿度を厳密にコントロールしながら熱を加えることで、あらかじめヴィンテージのような経年変化の効果を木材にもたらす狙いがあります。
弾き始めの時点で自然なタッチレスポンスが感じられるので弾き込んでいくのが楽しみになるね。
ブリッジに関しては、タスクサドル両端にネジがついた可動式「アジャスタブルブリッジ仕様」と、通常の牛骨サドルによる「フィックスドブリッジ仕様」が選択できるようになっています。
前者が「パーカッシブで歯切れの良いサウンド」、後者が「力強くストレートなサウンド」と表現されることが多いでしょうか。
ブリッジの仕様違いは鳴りへの影響で好き嫌いが分かれる部分なので、じっくり比較してみてください。
とことん装飾の美しさを追求したHummingbird DeluxeとCustom
最後に「カスタムショップ・モダンコレクション」に位置付けられているハミングバードのデラックスモデルとカスタムモデルです。
直近で生産終了の発表があったDeluxeに関しては、ボディのサイドバックがマホガニー材ではなくローズウッド材になっており、他機種とは一味違った粒立ち、艶感の楽しめる音色になっています。
意匠面でハミングバードらしさを留めながら、パーフリングやサウンドホールロゼッタ、ヘッドバインディング等の装飾が華やかです。
さらにはハードウェアをゴールドパーツで統一した気品のある佇まいが別格でしょう。
製作時期によって、リッチライト指板とエボニー指板が使い分けられているよ。
Customに関しては、もはやハミングバードの枠組みを越えている感もありますが、AAA(トリプルエー)グレードのコア材で製作されたモデルです。
各所に豪華絢爛なインレイをあしらっており、滅多に店頭に並んでいる状態を見かけることはないので出会えたらラッキーなレベルですね。
まとめ
以上、エピフォン、ギブソンレギュラーモデル、ギブソンカスタムショップとブランド別に、2020年以降、2024年時点のモデルについて資料としてハミングバード現行機種を整理してみました。
人気モデルであるがゆえに種類も多いところですが、予算の目安を比較して調べたり、候補を絞り込む参考になれば幸いです。ありがとうございました。