エレキギター初心者の方にとっては「どの機種が入門モデル候補になるか」を調べるのが大変ですよね。
当サイトでは、私自身の楽器店勤務経験をもとに解説記事を公開しており、ここでYAMAHAのPACIFICAシリーズを取り上げないわけにはいかないでしょう。
2024年1月現在の情報として、ヤマハのエレキギターでパシフィカを買うなら、本記事で紹介しているモデルさえ知っていれば大丈夫です。
あえて「ヤマハ・パシフィカをおすすめしない理由、選んではいけない理由」なども考えてみたものの、強いてネガティブなところを挙げられないくらいベーシックきわまりないモデル。
ただ、ヤマハのエレキギターでパシフィカを買うなら避けて通れない論点が別にあります。
それはパシフィカの現行ラインナップが非常に多いので、ギター初心者がシリーズの中から比較検討モデルを絞り込むのが大変だということ。
本記事では、その難題をショートカットできるように、あらかじめ楽器店員視点でおすすめモデルを4製品に厳選。ギターの種類ごとの特徴・違いについて解説してみました。
「さすがに全機種のカタログを見比べるのはしんどい…」という方のお役にたてば幸いです。
2022年12月に「ぼっち・ざ・ろっく」のアニメで後藤ひとりちゃんが弾いている2本目のギターとしてパシフィカが再注目されることになりました。その話題も記事の後半でご紹介しました。
ヤマハ・エレキギターの選び方:パシフィカのバリエーションから厳選した4モデル
最初にヤマハのパシフィカ製品の型番について、モデル名の法則を説明しておきましょう。
いずれの製品も「PAC」という「PACIFICA」の略称が先頭に付き、PAC100シリーズ、PAC200シリーズ、PAC300シリーズ、PAC600シリーズと数字が大きくなるほど本体価格/グレードが上がります。
レギュラーモデルで最もお手頃なのがPAC100番台のシリーズ。アーティストモデルを除いた現行・最上位機種はPAC600番台となっています。
そこで、あらためてラインナップを数えてみたら現行モデルは合計13機種で、色違いを含めると、なんと40種類近くに及ぶ選択肢があるんですよね。
それに加えて島村楽器オンラインストア限定で販売されているPacifica012シリーズもあるよ。
製品展開が多彩なことは本当にありがたいのですが、細かく調べていくのが苦手な方も少なくないですので今回は決め打ち。楽器屋店員視点で選抜したPACIFICA四天王をご紹介しています。
以下でチェックしていくパシフィカシリーズは、本記事更新時点のメーカー希望小売価格が税込34,100円から税込74,800円の範囲。取扱店舗によっては、そこから値引きが行われて実売価格となります。
下記製品の中でご自身の趣味に合いそうな製品を見つけたら、そのバリエーションを深堀りしていく選び方がおすすめです。
ギター初心者や学生さんにヤマハPACIFICA 112Vがコスパ抜群
まず、パシフィカのなかで一番お手頃なモデルからですが、本製品はかなり歴史が長いエレキギターで1995年に「PAC112」としてデビューしました。
それから、2007年10月にハードウェア・設計面でのアップデートが行われて、現行製品はPAC112Vという型番になっています。
先発モデルの型番末尾に「V」が付いたわけですね。「PAC112V」に生まれ変わってからも既に15年以上が経過しました。
当製品にはポップなカラーリングが多いんだけど、上記は飽きのこない定番「イエローナチュラルサテン」を選んでみました。
音を拾うピックアップ(マイク)の構成は「SSHレイアウト」もしくは「リアハム」と呼び、シングルコイルタイプ(S)とハムバッカータイプ(H)を両方搭載しております。
スタンダードなストラトキャスタータイプのギターの場合、シングルコイルタイプが標準なので、そこで音が細くなりがちな部分をハムバッカータイプで力強くする組み合わせですね。
同モデルにはメイプル指板バージョンのPAC112VM(上画像)も含まれ、これだけ安い価格帯に関わらずサウンドバリエーションを増やすためのコイルタップ機能が付いているのは大きな魅力。
近いラインナップでは、「2ハムバッカー仕様のPAC120H」もあるのですが、定番モデルで選ぶなら「PAC112V」のほうがよりオーソドックスで代表格といえるでしょう。
入門機種に思えない高級感を漂わせるヤマハPACIFICA 212VFM
続いて、PAC212VFMは前述したPAC112Vの見た目がゴージャスになったモデルで2010年4月に発売されました。こちらもずいぶんと長寿製品ですね。
製品画像を拡大すると、ギター本体のボディトップとヘッドに「薄いメイプル材の化粧板」が貼ってあるのが見て取れるでしょうか。
デザインの違いで先に挙げたPAC100番台と印象が変わってきますが、スペック面では先に挙げたPAC100番大きな違いがありません。
上記の「キャラメルブラウン」は他社ではなかなか見かけないユニークな色合いですね。わずかにオレンジ味を帯びたオリジナルカラーで、赤にも茶にも映るような美しい仕上がりが魅力でしょう。
型番末尾の「FM」は杢目(もくめ)の種類を表しており、「QM」が付くバリエーションもあります。
並べた画像でご覧いただけるとおり、前者が「フレイムメイプル」というストライプ状の杢目で、後者が「キルトメイプル」というウロコ状の杢目ですね。
ちなみに「ナット幅41mm」というのが(アーティストモデルを除いた)パシフィカ共通の寸法として、エレキギターの中でもやや細い部類のネック幅で製作されています。
寸法上はパシフィカのネックが「特別に細い」というレベルではないですが、実際握ってみると薄めの形状が相まって、手が小さい人でもストレスを感じにくい印象を受けました。
PAC300番台のPAC311Hは遊び心のあるピックアップ構成だけど今回は割愛するよ。
上位モデルながら割高に感じさせないヤマハPACIFICA 612VIIFM
さらにもう少し予算の工面ができる場合、現行パシフィカの上位グレードが選択できるようになってきます。下記の通りPAC600番台に属するPAC612VIIを候補に挙げました。
シリーズ上位機種とは言え、ギター初心者が十分狙える価格帯。かつ「二本目以降のギターとして選ぶモデルにもおすすめのクオリティ」で評判です。
ヤマハのパシフィカ旧型番で「PACIFICA 612V」が前身にあり、現在生産されているモデルはその第二世代(2018年7月発売)なのでIIと入っています。
機種依存文字なので「I」で書きますが、つまりVII(セヴン)ではなくVII(ヴイツー)ということですね。
青とも緑とも言えない絶妙なインディゴブルーの色合い、フレイムメイプルの杢目によって濃淡が生まれているのが素敵。
近い型番では下記のように「PAC611VFM(トレモロ仕様)」と「PAC611HFM(ハードテイル仕様)」があります。
612と違い「P90とハムバッカーを組み合わせたピックアップ(マイク)構成」なので、あえて候補を絞るならPAC612VIIがSSH構成で王道路線。
PACIFICA612VIIモデルに関しては、先にご紹介したPAC100番台・PAC200番台と異なる「セイモアダンカン・ピックアップ、ウィルキンソン・ブリッジ、グローバー・ロッキングチューナー」を搭載しています。
こういったパーツ名が専門用語で難しく思うかもしれませんが、ハイエンドモデルにも使われるようなグレードの部品を採用していると理解してもらえば大丈夫です。
2021年からの新作として発表されたヤマハPACIFICA 612VIIXに注目
そして4モデル目として、2021年1月にリリースされた製品PAC612VIIXに着目しましょう。こちらも読み方を少し迷うかもしれないですが、「ヴイツーエックス」となります。
末尾に「X」が付いているのは、「PAC612VII」に一層モダンなルックスを採用したイレギュラースペックという位置付けです。
型番に「FM」が入るフレイムメイプルトップ仕様で「PACIFICA612VIIFMX」も出ているのですが、上記は木目がシンプルなアルダーボディ。
以下に並べると、ずいぶんキャラクターが変わりますがメーカー希望小売価格は一緒。みなさんどちらのデザインが好みでしょうか。
PAC612VIIXの「ティールグリーンメタリック」には光沢があって「マットシルクブルー、イエローナチュラルサテン」は艶消し仕上げ。
パシフィカシリーズのなかで一番新しい製品ということもあり、ヤマハ公式Youtubeチャンネルに丁寧な解説がアップロードされているので参考にしてみてください。
カラーによってピックガードの種類が違い、ネック裏の塗装もボディフィニッシュに応じてグロスとサテンが使い分けられている特徴がありますね。
「ぼっち・ざ・ろっく!」で後藤ひとりちゃんが弾いているパシフィカについて
さて、冒頭で少し触れましたが、「ぼっち・ざ・ろっく」で後藤ひとりちゃん、ぼっちちゃんがアニメ第12話(1期最終話)で購入した2本目のエレキギターについてご質問をいただく機会があったので解説しておきます。
結論からいってしまうと、結束バンド・後藤ひとりちゃん(声優・青山吉能さん)のギターは、現行レギュラーラインナップの仕様であればPACIFICA611VFMが最も近いです。
こちらは2015年6月から発売されているモデルにあたり、パシフィカモデルの上位機種600番台のなかでPACIFICA612VIIFM(2018年7月)、PACIFICA612VIIX(2021年1月発売)より先行してラインナップされている製品。
PAC611VFMは、2023年の10月24日にヤマハミュージックジャパンからプレスリリースが発表されておりまして「楽器店大賞2023」を受賞することになりました。
メーカー希望小売価格が税込70,400 円で、前項のパシフィカ612と違い「音を拾うピックアップ(マイク)の構成がP90(ネック側)とハムバッカー(ボディエンド側)の組み合わせ」になっているのが最大の特徴です。
「型番だけ見るとPACIFICA611HFMと混同されやすい」のですが、「H」が入っている方はブリッジパーツの種類(アームが付いているか付いていないか)で異なるのでご注意ください。
なお、ぼっちざろっくで使用されているギターは作中で「特注仕様」と説明されています。
どのあたりが特注仕様なのか説明しておくと、
- ピックガードが(べっこう柄ではなく)ブラック/ホワイトのマルチプライになっている
- ピックアップカバーの色が違っている
- エスカッション(ピックアップ周囲の枠)が金属になっている
といったスペックの違いです。
細部まで再現しようとするとカスタマイズ・パーツ交換が必要ですが「新品の状態でもっとも近いのはYAMAHA PACIFICA611VFM」と考えていただければと思います。
ちなみに再現用のパーツは通常リペアショップやギター工房に個別で依頼するのが一般的ですが、ぼっちちゃんほどの影響力になると、あらかじめ交換用のピックガードを独自に製作して販売しているショップも出てきます。
たとえば上記はイシバシ楽器がオリジナルで製作販売しているピックガードです。ドンズバPacifica611と、よりお手頃なPacifica311シリーズで互換のパーツとなっています。
イシバシ楽器の御茶ノ水本店はアニメ12話に実写で登場していたあの楽器店で、熱心なファンの方に聖地巡礼もされていることが有名です。
さらに島村楽器ではピックガードに加えて、金属のエスカッションまで一緒に購入できる気合の入ったセットも用意されていますね。
なお、2022年12月24日から2023年1月9日にかけては、ぼざろ・後藤ひとりちゃん仕様のカスタムモデル(PACIFICA611VFMをもとにした非売品仕様)が2名にあたるキャンペーンが開催されていました。
現在も公式に特設サイトがオープンしているのと、直近では原作者はまじあきさんへのYAMAHA PACIFICA612 ぼっちver.進呈が2023年10月15日に投稿されたX(Twitter)のポストにて明かされていますね。
最後にぼっちちゃんがお父さんから借りていた一本目のギブソン・レスポールカスタムについて軽く補足しておきましょう。
こちらもまた、はまじあきさんが2023年7月28日にX(Twitter)の投稿でギブソンカスタム製品を購入報告して話題になっていました。かなり高価なモデルですね。
もし、お手頃価格で「レスポールカスタム」を探すとしたら、ギブソン傘下のエピフォン版が候補になるでしょう。
2023年11月15日に200セット限定のEpiphone Inspired by Gibson Les Paul Custom BOCCHI EDITION(参考価格:税込128,000円)が発表されましたが、レギュラーモデルだと下記製品が近いです。
まとめ:ギター初心者はヤマハのエレキが無難で扱いやすい
以下、YAMAHA PACIFICAの話に戻ってまとめです。
パシフィカについてのマメ知識として補足すると、PAC型番の数字は一桁目がグレード、二桁目がハムバッカーピックアップの数、三桁目がシングルコイルピックアップの数を表したものになっています。
もともとパシフィカといえば、1990年代に登場して間もない頃はスタジオミュージシャン、セッションギタリストがプロの現場で使うイメージが強かった製品。
そのノウハウを活かしつつも、近年再ブランディングされて、エントリークラス~中級者向けの人気ラインナップとして広く評価されるようになりました。
ネットやSNSを検索していると「パシフィカはダサい、デザインが嫌い」という声を見かけることはありますが、これだけユーザーが増え続けている人気モデルだとルックスの好みが分かれるのは普通だと思います。
ヤマハの場合、このような価格帯でもOEM(他社工場での委託生産)ではなく、海外の自社工場で品質管理・コスト削減を行っているのが強みですね。
直近ではバイクのデザインにインスピレーションを受けたREVSTAR(レブスター)シリーズのリニューアルも話題ですが、パシフィカの場合は個性が控えめというか、より癖が少なくて扱いやすいです。
ヤマハパシフィカの使用ギタリストとしては、現在ヤマハのエンドースでmukuchi chan(無口ちゃん)やHAL-CA(ASTERISM)さんが公式サイトに取り上げられています。過去には弓木英梨乃さんが弾いていたイメージも強いでしょう。
パシフィカは常々ギター初心者に寄り添ったアップデートを重ねてきた経緯があり、汎用性の高いストラトキャスタータイプとしての評価を確立。入門機種選びに失敗したくない方向けにおすすめしやすいモデルです。
最後までご覧いただきありがとうございました。