2021年7月8日のオンラインイベントで発表された「Fender Kurt Cobain Jag-Stang」は、同年10月13日より発売。旧フェンダージャパン版ジャグスタングの生産完了から約15年ぶりの再登場でした。
2026年現在はディスコンとなってしまいましたが、カート・コバーン本人が開発に関わったJag-Stangの歴史をはじめ、Kurt Cobain MustangやKurt Cobain Jaguarについて、元楽器店員視点で簡単に振り返っておきたいと思います。
カート・コバーンモデルのジャグスタング(生産完了モデル)
1993年当時、カート・コバーンのアイデアをもとにフェンダーで設計・開発されたジャグスタング。
それまで彼が愛用してきたJaguarとMustangを融合させる発想がベースになっています。
60 Years of Fender: Six Decades of the Greatest Electric Guitars
フェンダー創業以来の歴史や製品について記されたTony Bacon著『60 Years of Fender』(2010年刊)の表紙には、フィエスタレッドのJag-Stangが大きくあしらわれていました。
ギター正面から向かって左上(6弦側)の尖ったホーンがジャガーを彷彿とさせる形状になっている一方、ボディ中央のピックガードやブリッジ、コントロールプレート周りにはムスタングの意匠が色濃く残っています。
弦長(スケール)は、ジャガーとムスタングに共通する24インチ(約610mm)のショートスケールを採用。こうして2機種を並べてみると両者の面影が分かりやすいですね。
以下では、「カート・コバーン本人が使用したプロトタイプ」「フェンダージャパンで市販されたモデル」「2021年に復刻されたメキシコ製」の3つに分け、時系列順に解説していきたいと思います。
カスタムショップ製プロトタイプのジャグスタングが原点
ジャグスタングのプロトタイプは、フェンダーカスタムショップが正式に発足してから6年後の1993年に製作されました。
プロジェクトの中心となったのは、フェンダーのアーティスト・リレーション部門に所属していたLarry L. BrooksやMark Wittenbergらです。
ラリー・ブルックスは初期のマスタービルダーとしても活躍しており、エリック・クラプトン、ダニー・ガットン、スティーヴィー・レイ・ヴォーンらの楽器製作に携わったことでも知られています。
当時の経緯は「Fender Frontline Magazine」(1994年)に掲載されたインタビューのほか、Fender公式記事「Cobain’s Brainstorm: The Jigsaw Story of the Jag-Stang」でも紹介されています。
ピックアップは「テキサススペシャル」と「ディマジオH-3(DP158に近いタイプ)」だったとのことですが、実際にはH-8(DP151Fに近いタイプ)が搭載されており、のちに白いSeymour Duncan JBへ交換された説もありますね。
下記フォーラム(英語)では、オリジナルのジャグスタングについてディスカッションが盛んで膨大な検証資料を読むことができます。
Scott Zimmermanが製作した1969年スタイルの細いネックシェイプのこと、ホワイトピックガードやABRブリッジ、スイッチ配線など、後の製品版との違いも非常に興味深いポイントでしょう。
当初、ジャグスタングの製作にあたって、カート・コバーンからリクエストされたカラーはムスタングでおなじみのブルーとレッドでした。
ブルーのJag-Stangに関しては、1993年から1994年にかけて行われた「In Utero tour(インユーテロ・ツアー)」のライブで数曲使用されており、徐々に使用頻度が増えているのが確認できます。
あいにくレッドのプロトタイプが完成したのは1994年4月。残念なことに、カートの訃報と入れ違いのタイミングとなってしまいました。
Kurt Cobain Journals
『Kurt Cobain Journals』(2002年刊)には、カート本人がポラロイド写真を切り貼りして作ったJag-Stangのデザイン案も収録されていますね。
ブルーのJag-Stangはのちにコートニー・ラブからR.E.M.のPeter Buckへ贈られました。「What’s The Frequency, Kenneth?」(R.E.M公式YouTubeチャンネル)のMVなどでも右利き用に調整された状態での演奏を確認できます。
フェンダージャパン時代のジャグスタングは1995年から発売された
フェンダージャパン版のジャグスタングはカートが亡くなった翌年、1995年の秋にリリースされ、1996年のカタログから正式に商品掲載されています。
日本国内向けの初期型番は「Fender Japan JSG-65」。メーカー希望小売価格は65,000円で、当時は税抜価格で表記されていました。
他のアーティストモデルとはやや毛色が異なりますが、ヘッド裏に「Designed by Kurt Cobain」のステッカーが貼られています。
カラーバリエーションはソニックブルーとフィエスタレッドの2色で、ともに光沢のあるホワイトパーロイド柄の3プライ・ピックガードが標準仕様です。
1997年の国内カタログからは、左利き用の「Fender Japan JSG-77L」(メーカー希望小売価格77,000円・当時税抜表記)も掲載。
リットーミュージックの『フェンダー解体新書』には、1998年製Jag-Stangの貴重な分解写真が収録されているので機会があればチェックしてみてください。
フェンダージャパンのジャグスタングは2001年に一旦生産完了となりましたが、2003年には「FENDER JAPAN JAG-70」(メーカー希望小売価格70,000円・当時税抜表記)という製品名で復刻再販され、2006年頃まで販売されていました。
製造時期によって、ネックやヘッド付近に「Made in Japan」と書かれている個体と「Crafted in Japan」と書かれている個体があり、中古市場や海外では「JT-95」や「JT95EX」と表記されることもあります。
2021年10月に発売されたジャグスタングの復刻モデルについて
旧フェンダージャパン製品の生産完了から長い空白期間がありましたが、Nirvana『Nevermind』のリリース30周年に合わせて、Kurt Cobain Jag-Stangが待望の復刻を果たしました(2021年10月発売・現在は生産完了)。
製品名は「Fender Kurt Cobain Jag-Stang」で、ヘッド裏に「Made in Mexico」と記載があるフェンダー・エンセナダ工場製でした。
スペック面では旧フェンダージャパン製品を踏襲している部分が多い一方、ボディ材はバスウッドからアルダーへと変更。
ピックアップには専用の「Jag-Stang Single-Coil」と「Jag-Stang Humbucking」を搭載するようになっています。
メーカー希望小売価格は、右利き用が税込159,500円・左利き用が税込170,500円という価格設定で、それぞれ後に税込165,990円・税込174,430円と若干の価格改定が行われました。
| 型番 | Fender Japan JSG-65/JSG-77L/JAG-70 | Fender Kurt Cobain Jag-Stang |
| 生産国 | 日本 | メキシコ |
| ボディ材 | バスウッド | アルダー |
| ネック形状 | Oval | Slim “C” |
| ピックアップ | ST-VINTAGE/DRAGSTER ※JAG-70はDRAGSTER-J表記 | Jag-Stang Single-Coil/Jag-Stang Humbucking |
| ピックガード | ホワイトパーロイド3プライ | エイジドホワイトパーロイド4プライ |
| カラー | SBL, FRD | Sonic Blue, Fiesta Red |
メキシコ製のサービスマニュアルでは内部パーツ名として、ネック側に「’65 STRAT」、ブリッジ側に「SHAWBUCKER 1E」と記載されていますね。
「フェンダージャパンのジャグスタングだと音が大人しすぎる」と感じる方、ショートスケール・スリムネックでもパンチのあるサウンドが出したいという方から好評でした。
カート・コバーンモデルのムスタング(生産完了モデル)
カート・コバーンモデルとして市販されたムスタングは、2012年1月発売のFENDER JAPAN KURT COBAIN MG/COおよびKURT COBAIN MGが挙げられます。KC-MGやMG-KCといった型番で記載されることもあります。
同製品は2013年までカタログ掲載されていましたが、2015年の「フェンダージャパン」ブランド終了と、それに伴う日本製ラインナップの全面的な刷新で生産終了(ディスコン)となりました。
製品仕様としては、バックコンターやエルボーカットが施された1969年頃のムスタングをモチーフにしていることが特徴。
ただし、特定の個体を再現しているというより、1993年後半から登場頻度が増えた「Oranj-Stang、Sky-Stang」(通称)などのエッセンスを集約したイメージです。
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ハードなストロークに対応しやすいように、アジャストマチック・ブリッジと高さを抑えたスライドスイッチを採用する等の工夫が確認できます。
ピックアップにはセイモアダンカンJBを搭載。ピックガードからの吊り下げ式ではなく、ボディへ直接ネジ留めするダイレクトマウントになっていましたね。
Guitar magazine (ギター・マガジン) 2005年 05月号
カラーバリエーションは「ソニックブルー」「フィエスタレッド」の2色に加え、バーガンディブルーを彷彿とさせる「レイクプラシッドブルー(コンペティション・ストライプ入り)」がラインナップ。
2012年当時の消費税(5%)におけるメーカー希望小売価格は、前2色が税込110,250円(レフティ仕様は120,750円)、ストライプ入りの後者が税込120,750円(レフティ仕様は131,250円)に設定されていました。
現行モデルで近い製品を探す際には下記を参考にしてみてください。
その他、カート本人のムスタングにまつわるエピソードでいうと、2022年5月開催のジュリアンズ・オークション(Julien’s Auctions)にてヴィンテージ・ムスタングが出品されて話題になりました。
「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」のMV(1991年)でおなじみの個体ですね。
また、「Blue-Mustank、Oranj-Stang」に関しては、フェンダースタッフによる調査の様子がYouTubeで見れるのでぜひチェックしてみてください。
カート・コバーンモデルのジャガー(現行生産モデル)
「Nevermind」のヨーロッパツアー以降、ムスタングと並んでカート・コバーンのトレードマークとなったモデルがジャガーでした。
本人所有の機材は大胆な改造が施されたヴィンテージですが、それを新品で再現したモデルが2026年現在も現行機種としてラインナップされています。
Fender Kurt Cobain Jaguar
オリジナルは、カートが中古で入手する以前から、大幅なモディファイが施されていたそうですね。
本製品では、エスカッションマウント方式のDiMarzio DP103 PAFピックアップやDP100 Super Distortionピックアップで当時の状態を再現。
トグルスイッチのピックアップセレクターや、アジャストマチックブリッジ、ドームタイプノブも印象的です。
バインディング付きのネックでありながら、ポジションマークが(ブロックではなく)ドットになっているのは、1965年頃の過渡期に見られる仕様。
ネックに関してはその由来に諸説ありますが、ヘッドが小ぶりで細字のデカール「スパゲッティロゴ」になっている点が非常に珍しい部分でしょう。
開発の背景としては、カート・コバーンのギターテックを務めていたNick Close氏やEarnie Bailey氏とフェンダー社の共同プロジェクトで2011年に製品化・発売されました。
リリース時にはダメージ加工を施したRoad Worn仕上げが採用されましたが、2014年にはレリック加工を行わないNOS(New Old Stock)仕様が登場。現在はNOSのみがラインナップされています。
英文にはなりますが、ミュージシャン向けのニュースサイトMusicRadarに、開発に携わったJustin Norvell氏へのインタビュー記事が掲載されており参考になります。
※過去には「フェンダージャパンHJG-66KCシリーズ(1995年~)」というイケベ楽器オリジナルモデルも存在しました。
まとめ
本記事ではカート・コバーンの機材のうち、フェンダーのアーティストモデルになった「ジャグスタング」「ムスタング」「ジャガー」にテーマを絞って整理してみました。
フェンダー・ジャグスタングのファンサイトとしては、jag-stang.comが世界的に有名なポータルですので調べものに便利です。
最後までご覧いただきありがとうございました。







