エリック・クラプトンは1945年生まれ御年78歳。2023年の来日公演は私自身も現地でライブを見てきましたが盛り上がりましたね。
1974年10月31日の初来日以来、23回目の来日公演で、国内各地をまわるツアー日程はなく4月15日、18日、19日、22日、24日と全日を武道館にて開催されました。
特に4月21日(金)に関しては海外アーティストとして初、100回目の武道館公演を含む内容でした。
さて、コンサートをご覧になって、そのパフォーマンスにギター熱が再燃した方は相当多いはず。
本記事では楽器店勤務の経験をもとにギター店員視点でクラプトンフリークの方におすすめの機材について、ストラトキャスターを中心にご紹介してみようと思います。
エリック・クラプトンモデルのストラトキャスターについて
まずはアーティストモデルとして、フェンダーの現行製品にラインナップされているエリック・クラプトンモデルについて順番に解説していきます。
大まかなグレードとしては、
- フェンダーレギュラーモデルとして製作されているクラプトンモデル
- フェンダーカスタムショップによって製作されているクラプトンモデル
- フェンダーカスタムショップのマスタービルダーによって製作されているクラプトンモデル
の3種類に分かれますね。
公式サイトにカタログ掲載されているのは、フェンダーレギュラーモデルとカスタムショップ製の二種類です。
レギュラーモデルはカスタムショップと区別するため便宜的にフェンダーUSA(Fender USA)と呼ぶこともあるね。
この流れで「レギュラーモデルよりカスタムショップ製のほうが上位グレード」というのは想像しやすいでしょう。
3番目にあるマスタービルダーの名前を冠した製品に関しては、クラプトン本人が使用している個体に近い「特注品・受注生産品的なモデル」といったニュアンスで捉えれていただければよいかと思います。
この3種類の特徴について以下で見ていくことにしましょう。
フェンダーレギュラーラインナップのクラプトンモデルの特徴
フェンダー社にとって「エリック・クラプトンモデル・ストラトキャスター」はきわめて特別なモデル。
マメ知識ですが、クラプトンモデルこそがフェンダー社が製品化・発売した初のアーティストモデルなのです。
クラプトンモデルは、1988年にイングヴェイ・マルムスティーンのシグネチャーモデルとほぼ同時期にリリースされました。
フェンダーカスタムショップの創設時期にも近いのですが、そこでプロトタイプとしてモチーフにされたのが1983年発表のFender Elite Stratocaster。
ギターを抱えたときに、左側のトーン位置にTBXトーン、右側のトーン位置にアクティブミッドブースト(ECモデルではエリートストラトよりブースト強化)が搭載されているのが最たる特徴でしょう。
エフェクターが内蔵されているといったら大袈裟ですが、9Vの角型電池で駆動する回路が仕込まれているよ。
トーンノブの場所をひねるだけで25dbほどゲインブーストできる基盤がピックガード下に入っており、さらにブーストしたときの音抜け具合を調整するために、低域カットまでできるTBXトーンポットが付いている強みがあります。
ネックシェイプは当時現役だった愛器ブラッキーのオリジナルをもとにしたVシェイプが考案され、「ピューター・トリノレッド・キャンディグリーン」が登場したあと、「ブラック・オリンピックホワイト」がラインナップされるようになりました。
2000年代に入るとピックアップは初期の「レースセンサー」から「ヴィンテージノイズレス・ピックアップ」にアップデート。
後者ではアルニコ5のマグネットを縦積み(スタック)させることでノイズを抑えながら、以前よりヴィンテージ路線に寄せたアプローチがしやすいスペックとなっています。
演奏性や調整のしやすさを考慮した「9.5インチRで22フレットのツバ出し指板」も、今となってはヴィンテージモダン系の機種全般でスタンダードな仕様に定着しましたね。
現行版は「オリンピックホワイト、ブラック、ピューター、トリノレッド」がカリフォルニア工場にて製作されています。
フェンダーカスタムショップ製のクラプトンモデルの特徴
続いてカスタムショップバージョンですね。カスタムショップ製とレギュラーモデルのクラプトンモデルは何が違うのか、楽器店勤務中に聞かれることの多かった質問であり、かつ文字で違いを表現するのが結構難しいところ。
端的に言ってしまうと、前述したレギュラーモデルはラインで製作されている量産モデル的なイメージが強くなります。
それに対して、カスタムショップ製は、「材の選定から製作・組み込みまで各工程に一層こだわって製作されている」という表現が良いでしょうか。建物自体はレギュラーモデルと同様にカリフォルニア工場の中にあります。
スペック表記に限れば、カスタムショップ製品とレギュラーモデルかなり似通っていますが、実際に楽器を抱えてみると、試奏する前の段階で「あぁ、そういうことか」と実感できると思います。
以前に比べてレギュラーモデルと価格差も広がっていますが、両モデルを弾き比べさせてもらえる環境があれば試しみてよう。
カスタムショップ製では、ヘッド裏にサインプリントと並んでカスタムショップのロゴが入っていたり、CS製であることを示すための認定証(Certificate of Authenticity)が付属されていたりします。
レギュラーモデルと同様に、バックパネル内の木片でトレモロブロックが動かないように固定されているのですが、アームを使いたい場合に木片を外して再調整することは可能。
ただ、クラプトン好きの方はブロックしたまま楽しむ方が多数派でしょう。CS版では、ネックプレートに開いている小さな穴(マイクロティルトによる調整機構)もありません。
カラーオプションに関しては、ブラックはレギュラーモデルと共通ですが、メルセデスブルーや、ミッドナイトブルーがカスタムショップ用のカラーとなっています。
マスタービルダーが製作しているクラプトンモデルの特徴
そして、フェンダーカスタムショップ製品のなかでもマスタービルダーの名前を冠したクラプトンモデルはハイエンドモデルに位置付けられますね。
こちらは、いわゆるクラプトン本人の楽器を制作している職人が手がけた個体ということになります。
「マスタービルト」とくくられる製品群で、その中には「メーカー主導企画」のものもあれば、国内外の楽器店がこだわりのスペックで「カスタムショップに特注したモデル」もあります。
現行のECストラトを特注する際にはミッドブーストのみでTBXトーンを付けないことが多いのですが、過去にクラプトンが使用していた特定時期の仕様を狙って再現オーダーする店舗もあります。
過去にはJ.W.ブラック、ラリー・ブルックス、マーク・ケンドリックらによる制作が特に有名で、近年はトッド・クラウスが御用達ビルダーとなっていますね。
シニアマスタービルダーのTodd Krauseはジャクソン/シャーベル出身でバックオーダーを多数抱えています。
2023年の来日公演では2017年に発表されたJourneyman Relic Eric Clapton Signature Stratocaster, Aged White Blondeのプロトタイプがメインとなっていて注目を集めました。
照明が強く当たるとアッシュブロンドの木目が透けて見えたり、ピックアップのセレクターポジションを切り替えたときの音色変化、ピッキングによる如実なトーンの変化が顕著に感じたのではないでしょうか。
エリック・クラプトンモデルではない現行製品から選びたい方向けの候補
以上、まずは現行クラプトンモデルについての解説を行いました。
ただ、あえてドンズバのシグネチャーモデルは気恥ずかしいから外しておきたいという声もありますよね。
「どうしてもサインプリントが入っているのが気になってしまう」「また80年代後半、90年代以降のストラトサウンドではなくそれ以前のECサウンドを狙いたい」という方向けのオプションを下記でご紹介しておこうと思います。
具体的には、クラプトンがこれまでのキャリアでメインに使ってきた1950sスタイルのストラトキャスターが主軸。価格帯もアーティストモデルよりお手頃な製品を中心に選んでおきました。
50sモデル・ストラトキャスターについては別記事でご紹介していますが、基本的には54年~55年モデルではなく、56~57年モデルのアルダーボディでメイプルワンピースネック仕様が使用されている頻度が高いです。
現行機種から選ぶなら何が候補になるのか、いくつかクラプトン好きのためのモデル選びとして比較解説していきましょう。
アメリカンヴィンテージIIシリーズでクラプトン風のモデルを選ぶ
2022年11月にリリースされたアメリカンヴィンテージ・シリーズの最新版から取り上げていきましょう。
「旧アメリカンヴィンテージ」や「アメリカンオリジナル」といったシリーズの系譜・歴史については割愛しますが、こちらは1957年モデルがモチーフになっています。
2カラーサンバーストがアルダーボディ、ヴィンテージブロンドがアッシュボディだね。
今回の来日公演でアッシュボディのレンジ感の広いサウンドに魅了された方はヴィンテージブロンドの方も要チェックです。
1957年モデルなので、ソロデビューのセルフタイトルアルバムなどでおなじみのブラウニーよりVシェイプが若干きつい印象ですが、Pure Vintage 57 Stratocasterピックアップと、ややきつめの7.25インチR指板、ヴィンテージトールサイズフレットの組み合わせには当時のレコードを彷彿させる響きがあります。
メイドインジャパントラディショナル・シリーズでクラプトン風のモデルを選ぶ
続いて、「メイドインジャパントラディショナル」というのは、昔の言い方であればフェンダージャパンの系譜です。
現行機種に関しては、2017年から指板Rが若干フラットにアップデートされているモデル。
ボディ材がアルダーボディではなくバスウッドを採用。ボディ塗装がポリエステル、ネック塗装がウレタンなど生粋のヴィンテージ路線ではないですが、フェンダーの現行品ではコストパフォーマンス的にも定番人気の製品となっています。
旧Fender Japan ST57の頃とはトラスロッドの仕込みも違いますし、ボディやネックのプロファイルも変更、製作工程がずいぶん変わりました。
もちろん最初から5wayセレクターでハーフトーンでピックアップをミックスした響きも心地良いよ。
カラーバリエーション的にブラウニーを意識するなら2カラーサンバースト、ブラッキーを意識するならブラックと選択肢に入れていただければと思います。
スクワイヤーのクラシックバイブシリーズでクラプトン風のモデルを選ぶ
最後に、フェンダー直系ブランドでお求めやすいSquier製品からクラプトン風のストラト選びにおすすめの一本ご紹介することにしましょう。
CV(クラシックヴァイブ)シリーズにはずいぶん歴史があるのですが、2019年にリニューアルされたバージョンが現行モデルにつながっています。
前半で挙げたアーティストモデルは高価なモデルですし、USA製・日本製のほうも決して安い買い物ではないと思います。
「若い頃にギターを弾いていたけど環境が変わって手離してしまった。まずは、出費をギリギリに抑えてもう一度趣味として再開してみようかな…」という方にはおすすめしやすい予算感のモデルです。
本製品であればギター初心者の方にとっても工面しやすい価格帯ではないでしょうか。
フェンダーデザインのアルニコシングルコイルピックアップでやや飴色なっているメイプルネックもかっこいいね。
まとめ
以上、駆け足ながら、元楽器店員がクラプトンモデルのストラトキャスターを解説。またアーティストモデル以外でもクラプトン好きが候補にできるエレキギターの機種について合わせてご紹介してみました。
2023年9月にはLAで7回目のクロスロード・ギター・フェスティバルが開催。24ナイツの完全版「THE DEFINITIVE 24 NIGHTS」の発売があり、まだまだ活躍が楽しみですね。
今回はストラトキャスターに焦点絞りましたが、クラプトン約60年のキャリアの中で様々な楽器遍歴がありますので別のカテゴリーも機会があれば追ってご紹介していきたいと思います。
最後までご覧いただきありがとうございました。