エレキギターで「ムスタングモデル」というと、2010年代に入るまでは「フェンダージャパンもしくはヴィンテージ」「その他メーカーの派生・レプリカモデル」くらいしか選択肢がありませんでした。
しかし、ここ数年の間にフェンダーおよびスクワイヤー(スクワイア)でムスタングの新製品が続々と追加されています。

とてもありがたいことですが、「どのモデルにすべきか迷ってしまうシチュエーション」も増えたといえるでしょう。

ムスタングの初出は1964年。コンパクトなボディシェイプと24インチ・ショートスケールのエレキギターで気軽に演奏できるのが人気だね。
本記事ではFender/Squier Mustang現行機種の全モデル(9機種プラスアルファ)について、「2022年12月時点で選べるラインナップの特徴や違い」を比較解説してみました。
ギターの下見準備や候補を絞る参考資料として、ぜひご活用いただければと思います。
低予算で選べるハードテイル仕様を採用したムスタング3機種の特徴
Fender Mustangといえば、ブリッジ部分の「ダイナミックトレモロ」によって音程を変化させることができるヴィブラート機構が大きな特徴。

そこをあえて固定式にした「ハードテイル仕様のモデル」が以下で紹介するように3機種リリースされています。
画像を拡大して見ると「ストラトキャスターのブリッジ」に似ていますが、一般的なストラトと違いアームを入れる穴や背面キャビティ(四角いザグリ加工)がないことに注目。

それらはアームで音程を変化させる奏法(アーミング)はできませんが、セットアップやチューニングに悩まなくて済むというメリットがあり、なにより価格が安いのは大きな魅力でしょう。

「ミュージックマスター」や「デュオソニック」のような兄弟姉妹モデルにも近いスペックだね。

軽量でありながらラウドなサウンドのBullet Mustang HHがギター初心者向けで安い
まずは、フェンダー直系の廉価版ブランドにあたるスクワイヤー(スクワイア)・バレットムスタングがこちら。
上記は主にインドネシア工場で製作されており、型番の「HH」が示す通り「ハムバッカータイプのピックアップ」を採用しているのがポイントです。
価格帯的にチープなサウンドを想像するかもしれませんが、小ぶりでかわいらしい見た目に反して、なかなかラウドに鳴ってくれるサウンドが魅力。

ボディは軽量なポプラ材を用いたもので、肘や腰骨があたる部分が滑らかな「コンター加工」によって抱えやすくなっているのも好評なところです。
Bullet Series自体はギター初心者・入門者向けのラインナップとして有名ですが、ムスタングが追加されたのは2017年以降のこと。
カラーオプションは「ブラックとインペリアルブルー」の他、2019年に新色としてくすみ系の「ソニックグレイ」が選べるようになりました。
P90風ピックアップを搭載したPlayer Series Mustang 90が2020年からリニューアル
続いてはメキシコにあるフェンダー・エンセナダ工場製のムスタング90モデルです。
製品名の後ろに付く「90(キュウジュウ、ナインティー)」は、搭載しているピックアップの名称「MP-90」に由来しています。
2016年夏にリリースされた当初は「オフセットシリーズ」と呼ばれていましたが、2020年以降は「プレーヤーシリーズ」のラインナップに編入。

カラーも「エイジドナチュラル、バーガンディミストメタリック、シーフォームグリーン」にリニューアルされているよ。

P-90ピックアップに関しては、よく「シングルコイルとハムバッカーの中間的な音色」と表現されます。
ムスタングにP-90を搭載している時点で少々個性的ですが、本製品のMP-90の場合は若干ホットで力強いサウンド設計になっているのが強みといえるでしょう。
MEX現行機種のスタンダードではPlayer Series Mustangが代表格の人気
公式サイトでは「ムスタング」とシンプルに表記されていますが、前述したプレーヤーシリーズのバリエーション機種にあたります。
「オーソドックスなシングルコイルピックアップ構成」で、ボディの木部にアルダー材が使用されたモデルです。
カラーが「ソニックブルー、ファイアミストゴールド」の場合は、ミントグリーン・ピックガード。
「シエナサンバースト」の場合は、ブラック・ピックガードが使い分けられていますね。
色味だけでこれほど印象が変わり、後者は「ラージヘッドスタイル」なのも相まって、1970年代末の雰囲気を感じる人がいるかもしれません。
上述の2機種と同様にピックアップ・セレクターが3wayスイッチになっている点も、操作性を重視した現代的なアレンジです。
フェンダーのデモ演奏動画では、同環境でMP90搭載モデルと弾き比べされているので音色の違いを確認してみましょう。
ダイナミックトレモロの王道路線が好評なムスタング4機種の特徴
ここからは「ダイナミックトレモロがなければムスタングといえない」という王道路線・ヴィンテージ志向の方に向けての内容。
「Mustang」には「小型の野生馬」という意味があることが有名ですが、とりわけ大胆なレスポンスのアーミング・ヴィブラートは、使い勝手がジャジャ馬なテイストだと言われています。

スライドスイッチでピックアップ位相を切り変えたときの音色変化も、ヴィンテージスタイルのムスタング以外では再現しにくいユニークなサウンドでしょう。
2019年に再編されたClassic Vibe 60s Mustangはスクワイヤー版の上位機種
CVシリーズはリーズナブルでありながら、スクワイヤー(スクワイア)製品の上位機種に相当するモデルです。
具体的には2019年に再編された「クラシックヴァイブシリーズ」にラインナップされているムスタングが下記。
カラーオプションは、淡い「ソニックブルー」と若干イエローの色味を帯びた「ヴィンテージホワイト」の二色。
いずれも1960年代風に「べっ甲柄のピックガード」を配した伝統的なルックスで、旧来より少しダークな色味のブラウンです。

Squier Vintage Modified Mustangは生産完了で、ボディ材・ブリッジサドル・ピックガード・ペグの種類などが異なっているよ。

ネックの塗装が、わずかに飴色がかったヴィンテージ調の質感なので雰囲気がありますね。
ポプラ材のボディで、搭載ピックアップは「アルニコマグネットのフェンダーデザイン」が採用されたコスパ良好のムスタングとなりました。
日本製のフェンダー・ムスタングならMIJ Traditional 60s Mustangが王道の一本
日本製のMade in Japan Traditionalシリーズで生産されている「60sムスタング」は2020年以降に販売されているタイプが最新仕様です。
本製品が2017年に発売された当初は、指板の湾曲面が「7.25インチR」だったのですが、新製品では(弦高を下げても音詰まりしにくいように)少しフラットな「9.5インチR」へと変更になっています。
現行機種では、バスウッド材のボディやメイプル材のネックの形状もUSAの採寸データにもとづいての製作にアップデートされました。
従来の60sモデルよりナット幅がわずかにスリムになったことでネックの握りも若干違いを感じますね。もし同型番の中古と比較するときは若干留意しておきましょう。

ピックガードは「ダフネブルー」だとパーロイドで、「オリンピックホワイト」だとべっ甲柄。
この角ばったプラスチックボタンのf-keyチューナーにこだわる方は多いでしょう。
スペック面での違いはありますが、「フェンダージャパン時代のMG65、Japan Exclusive時代のClassic 60s Mustang」に相当するモデルを現時点でお探しなら本製品が候補となります。
2021 Collection Made in Japan Traditional 60s Mustang Competition Orangeとして、旧フェンダージャパンMG69COや旧MG73COを彷彿させるリミテッドモデルが発売されましたが、本記事更新時点ではほぼ在庫切れになってしまいました。
「軽量なコンター付きボディのコンペティションオレンジ」が特徴ですが、レーシングストライプデザインの日本製ムスタングは近年渇望されていた仕様で話題を呼びました。
指板周りまでヴィンテージ仕様を踏襲したVintera 60s Mustangは人気のメキシコ製
さて、数年前まで「ヴィンテージスペック=日本製」という図式だったのですが、最近は上述の「MIJトラディショナル」も少々モダンな方向にシフトしています。
よりオールド志向のムスタングが好みであれば、有力な選択肢となるのが2019年にリリースされた「ヴィンテラシリーズ」です。

「VINTAGE STYLE FOR THE MODERN ERA」というコンセプトのもと、フェンダー・エンセナダ工場で製作されているよ。
ここでフィンガーボードやフレットサイズが「ヴィンテージを忠実に再現した仕様」となっている影響は、弾き心地の違いだけではないです。
心地良いアタック感や音の立ち上がりというところで、他機種以上にフェンダー然としたニュアンスが感じとれるでしょう。
ヴィンテラ・ムスタングでは、ピックアップカバーがブラックで統一されていますね。ペグのツマミはプラスチックの丸ボタン。
「サンバースト、レイクプラシッドブルー、シーフォームグリーン」のカラーバリエーションで、いずれも光沢のあるパーロイド・ピックガードをあしらった製品です。
長いこと欠品が続いていたUSA製American Performer Mustangも一部再入荷
フェンダー・アメリカンパフォーマーシリーズのムスタングは長期欠品が続いていましたが、若干の再入荷が見られるようになりました。
これはムスタングに限らずですが、フェンダー製品で「型番にAmericanと入っているモデル」は基本的にカリフォルニアUSA工場製であることを示しています。
アメリカンパフォーマー・ムスタングの前身となったのは「American Special Mustang」といって2013年に発表されたモデル。
ただし、そちらは「ストップテイルピース仕様かつハムバッカーピックアップを搭載」したモダンな装いでした。
2018年から登場した本製品に関しては、セレクタースイッチこそ3wayですが、よりオーセンティックなコンセプトのムスタングに回帰しているのが評判ですね。
「モダンCシェイプのネックグリップ、9.5インチR指板、ジャンボフレット」によるストレスのない演奏性を獲得しており、端的にいうとバキっとしたパンチのある音色になりやすいです。
Yosemite(ヨセミテ)ピックアップは、エンジニアの巨匠ティム・ショウらによって新開発されたもので、良好なピッキングレスポンスと解像度の高いサウンドが好評を博しています。
アーティストモデル特有のイレギュラーなムスタング2機種の特徴
ここまでご紹介したような「正統派では物足りない」「さらに一癖あった方が愛着が沸く」という方もいらっしゃるでしょう。
以下、アーティストモデルのムスタング2製品のご紹介をしてあるので、この機会にチェックしてみてください。
ストラトとムスタングを高いレベルで融合させたCHAR MUSTANGが斬新で面白い
2019年に発売されたMade in JapanのChar Mustangは、日本にムスタング人気を定着させた第一人者である竹中尚人氏の新しいシグネチャーモデルです。
かつて2012年に登場したフェンダーカスタムショップ製の「Charフリースピリッツ・ムスタング(御召茶色)」という機種があるのですが、本製品は新たに別路線で設計開発されたオリジナルモデル。
なんとストラトキャスタースタイルのシンクロナイズド・トレモロを組み合わせてしまったChar(チャー)さんらしい遊び心のある一本です。

何度見返しても、ムスタングの裏側にトレモロスプリングのキャビティがあるのは新鮮。
ブリッジだけでなく、ボリュームコントロールの配置やピックガード形状まで、「ストラトと大胆に融合させてしまうアイデア」が反映された専用デザインとなっています。

ショートスケールにも関わらず、テンション感があって低音弦までしっかり鳴ってくれると評判だね。
アッシュボディのBen Gibbard Mustangは珍しいチェンバード構造で製作されている
最後は2021年春から発売されているアーティストモデル。ベン・ギバード・シグネチャーモデルのムスタングについて見てみましょう。
これまで8回に及ぶグラミー賞ノミネートの評価を受けているBen Gibbard。モデルはMEXICO工場製でサインプリントはヘッド裏にあります。
ベン・ギバード本人がツアーで愛用しているムスタングにインスピレーションを受けたもので、本製品に関してはチェンバード構造で軽量化されたアッシュボディが最大の特徴でしょう。

ピックアップ特性も実機をもとに設計されていて、ボディ内に空洞を設けたことによる奥行きのある響きが美しいよ。
じつはテールピースが固定されており、従来型のムスタングより安定したチューニングとタイトなサウンドを実現することに貢献しています。
スライドスイッチ(フェイズスイッチ)は付いていないうえに、トーンノブがダミーで「ロータリスイッチ方式のピックアップセレクター」となっているのも彼のこだわり。
ピックガードとのコントラストがあるナチュラルカラーで、近年は稀少になっているアッシュ材の木目が映えるムスタングになっていますね。
まとめ
以上、ハードテイル仕様、ヴィンテージ路線、アーティストモデルと順番にムスタング現行モデルの特徴を比較ご紹介してみました。
ムスタングボディの仲間では2021年9月からスクワイヤー・パラノーマルシリーズ・サイクロンが発売されています。
「ストラトキャスター風ピックアップ、ジャガー風コントロール、24.75インチ・ミディアムスケールネック」を組み合わせているので、「正直ムスタングのバリエーションとは呼びにくいモデル」ですがとにかく個性が強い。機会があればぜひ試してみてください。
なお、2021年4月13日発売のギターマガジン5月号では「ムスタング偏愛。」という特集記事がボリュームたっぷりの力作で話題になりました。
Kindle Unlimited会員なら電子書籍のバックナンバーが追加料金なしで読めるので、フェンダー・ムスタングに興味のある方は楽しめると思います。
ショップ選びに迷った際は、楽器店ごとのポイント・キャンペーン情報をまとめた下記が参考になれば幸いです。
以上、最後までご覧いただきありがとうございました。