エレキギターで「ムスタング」を探そうとしたとき、2000年代までは「フェンダージャパンもしくはヴィンテージ」くらいしか選択肢がありませんでした。
2010年代に入るまで、フェンダー以外のメーカーでムスタングモチーフの派生モデルは存在していましたが、あまり一般的ではなかったですね。
しかし、特にここ数年ではフェンダーおよびスクワイヤー(スクワイア)でムスタングの新製品が続々と追加されています。
とてもありがたいことですが、今度はどのモデルにすべきか迷ってしまうシチュエーションも増えています。
ムスタングの初出は1964年。コンパクトなボディシェイプと24インチ・ショートスケールのエレキギターで気軽に演奏できるのが人気だね。
本記事では楽器店員視点からFender/Squier Mustang現行機種の全モデル(9機種プラスアルファ)について、「2024年1月時点で選べるラインナップの特徴や違い」を比較解説してみました。
ギターの下見や候補を絞る参考資料として、ぜひご活用いただければと思います。
低予算で選べるハードテイル仕様を採用したムスタング3機種の特徴
まずはなるべく低予算で選べるモデルからチェックしていきましょう。
Fender Mustangといえば、下画像のヴィンテージ個体のようにブリッジ部分の「ダイナミックトレモロ」によって音程を変化させるヴィブラート機構が大きな特徴。
しかしながら、その特徴的なパーツをあえて固定式にした「ハードテイル仕様のモデル」が以下で紹介するように3機種リリースされています。
画像を拡大して見ると「ストラトキャスターのブリッジ」に似ていますが、一般的なストラトと違いアームを入れる穴や背面キャビティ(四角いザグリ加工)がないことに注目。
ハードテイルブリッジということは、アームで音程を変化させる奏法(アーミング)ができませんが、セットアップやチューニングに悩まなくて済むというメリットがあり、なにより販売価格が安いのは大きな魅力でしょう。
「ミュージックマスター」や「デュオソニック」のような兄弟姉妹モデルにも近いスペックだね。
具体的な製品を順番にピックアップしていくことにします。
Bullet Mustang 後継のSquier Sonic Mustangがギター初心者向けで安い
最初にギター入門者向けの定番アイテムとして、フェンダー直系の廉価版ブランドから見てみましょう。
スクワイヤー(スクワイア)のバレット・ムスタング後継機種として2023年6月に発売されたソニック・ムスタングです。
価格帯的にチープなサウンドを想像するかもしれませんが、小ぶりでかわいらしい見た目に反して、なかなかラウドに鳴ってくれるサウンドが魅力。
主にインドネシア工場で製作されており、型番に「HH」がついた「ハムバッカータイプのピックアップがついたバージョン」、型番に「HH」がつかない「シングルコイルタイプのピックアップがついたバージョン」があります。
ちなみに下記が旧モデルのバレットムスタングで、2017年からブラック、インペリアルブルーが発売。加えて、2019年からはソニックグレイが選べるようになっていました。
今回の新製品ソニックムスタングでも軽量なポプラ材で製作されている人気仕様は踏襲。
細かく見比べていくと、ボディ表裏に「コンター加工」という曲面の仕上げが施された前作よりフラットなボディデザインになっています。
シングルコイルモデルは「2カラーサンバーストとトリノレッド」、ハムバッカーモデルは「カリフォルニアブルーとフラッシュピンク」といったポップなカラー展開ですね。
P90風ピックアップ搭載Player Series Mustang 90が2020年にリニューアル
続いてはメキシコにあるフェンダー・エンセナダ工場製のムスタング90モデルです。
製品名の後ろに付く「90(キュウジュウ、ナインティー)」は、搭載しているピックアップの名称「MP-90」に由来しています。
2016年夏にリリースされた当初は「オフセットシリーズ」と呼ばれていましたが、2020年以降は「プレーヤーシリーズ」のラインナップに編入。
カラーも「エイジドナチュラル、バーガンディミストメタリック、シーフォームグリーン」にリニューアルされているよ。
P-90ピックアップに関しては、よく「シングルコイルとハムバッカーの中間的な音色」と表現されますね。
ムスタングにP-90を搭載している時点で少々個性的ですが、本製品のMP-90の場合は若干ホットで力強いサウンド設計になっているのが強みといえるでしょう。
MEX現行機種のスタンダードではPlayer Series Mustangが代表格の人気
ハードテイルモデルの3本目。公式サイトでは「ムスタング」とシンプルに表記されていますが、前述したプレーヤーシリーズのバリエーション機種にあたります。
「オーソドックスなシングルコイルピックアップ構成」で、ボディの木部にアルダー材が使用されたモデルです。
カラーが「ソニックブルー、ファイアミストゴールド」の場合は、ミントグリーン・ピックガード。
「シエナサンバースト」の場合は、ブラック・ピックガードが採用されているので別モデルのように見えるかもしれません。
色味だけでこれほど印象が変わるうえ、後者は「ラージヘッドスタイル」なのも相まって、1970年代末のムスタングに近い雰囲気を感じる人がいるかもしれません。
先に紹介した2機種と同様にピックアップ・セレクターが3wayスイッチになっている点も、操作性を重視した現代的なアレンジといえます。
フェンダー公式のデモ演奏動画にてMP90搭載モデルと弾き比べされているので同環境で音色にどのような違いがあるか確認してみましょう。
ダイナミックトレモロの王道路線が好評なムスタング4機種の特徴
ここからは「ダイナミックトレモロがなければムスタングといえない」という王道路線・ヴィンテージ志向の方に向けての内容です。
「Mustang」というモデル名が「小型の野生馬」に由来することが有名ですが、とりわけ大胆なレスポンスのアーミング・ヴィブラート。使い勝手がジャジャ馬なテイストだと言われています。
スライドスイッチでピックアップ位相を切り変えたときの音色変化も、ヴィンテージスタイルのムスタングらしさを感じさせるユニークな特徴でしょう。
2019年に再編されたClassic Vibe 60s Mustangはスクワイヤー版の上位機種
さて、CVシリーズはリーズナブルでありながら、スクワイヤー(スクワイア)製品の上位機種に相当するモデルです。
具体的には2019年に再編された「クラシックヴァイブシリーズ」にラインナップされているムスタングが下記。
カラーオプションは、淡い「ソニックブルー」と若干イエローの色味を帯びた「ヴィンテージホワイト」の二色。
いずれも1960年代風に「べっ甲柄のピックガード」を配した伝統的なルックスで、旧来より少しダークな色味のブラウンが採用されることになりました。
Squier Vintage Modified Mustangは生産完了で、ボディ材・ブリッジサドル・ピックガード・ペグの種類などが異なっているよ。
ネックの塗装が、わずかに飴色がかったヴィンテージ調の質感なので雰囲気がありますね。
ポプラ材のボディで、ピックアップは「アルニコマグネットのフェンダーデザイン」が搭載されたコスパ良好のムスタングとなりました。
日本製のフェンダー・ムスタングならMIJ Traditional 60s Mustangが王道
それから、日本製のMade in Japan Traditionalシリーズでもムスタングが生産されていて、「60sムスタング」は2020年以降に販売されているタイプが最新仕様です。
本製品が2017年に発売された当初は、指板の湾曲面が「7.25インチR」だったのですが、新製品では(弦高を下げても音詰まりしにくいように)少しフラットな「9.5インチR」へと変更になっています。
現行機種では、バスウッド材のボディやメイプル材のネックの形状もUSAの採寸データにもとづいての製作にアップデートされました。
従来の60sモデルよりナット幅がわずかにスリムになったことでネックの握りも若干違いを感じますね。もし同型番の中古と比較するときは若干留意しておきましょう。
ピックガードは「ダフネブルー」だとパーロイドで、「オリンピックホワイト」だとべっ甲柄。そして、この角ばったプラスチックボタンのf-keyチューナーにこだわる方は多いでしょう。
スペック面での違いはありますが、「フェンダージャパン時代のMG65、Japan Exclusive時代のClassic 60s Mustang」に相当するモデルを現時点でお探しなら本製品が候補となります。
ヴィンテージフィールを追求したVintera 60s/70s Mustangに要注目
さて、次はメキシコ製のモデル。数年前まで「ヴィンテージスペック=日本製」という図式だったのですが、最近は上述の「MIJトラディショナル」も少々モダンな方向にシフトしています。
よりオールド志向のムスタングが好みであれば、有力な選択肢となるのが2019年にリリースされている「ヴィンテラシリーズ」です。
「VINTAGE STYLE FOR THE MODERN ERA」というコンセプトのもと、フェンダー・エンセナダ工場で製作されているよ。
ここでフィンガーボードやフレットサイズが「ヴィンテージを忠実に再現した仕様」となっている影響は、弾き心地の違いに限らず音色面にも表れてきます。
とりわけ心地良いアタック感や音の立ち上がりというところで、他機種以上にフェンダー然としたニュアンスが感じとれるでしょう。
ヴィンテラ・ムスタングでは、ピックアップカバーがブラックで統一されていますね。ペグのツマミはプラスチックの丸ボタン。
「サンバースト、レイクプラシッドブルー、シーフォームグリーン」のカラーバリエーションで、いずれも光沢のあるパーロイド・ピックガードをあしらった製品です。
なお、同シリーズは在庫限りで、2023年9月20日に発売されたフェンダー・ヴィンテラ2・70sムスタングに後継されることが決まっています。
ピックアップが「Vintage-Style ’60s Single-Coil Mustang→Vintage-Style ’70s Single-Coil Mustang」、ネックシェイプが「’60s “C”→Early ’70s “C”」と年式準拠のスペックに変更。
フレットに関しても「Vintage→Vintage Tall」とマイナーチェンジされているのですが、何より大きな違いとなったのはボディ形状です。
演奏者の身体にフィットしやすいようボディ背面にコンター加工が施された1960年代後期以降のデザインにリニューアルされました。
エルボー部分にコンペティションストライプをあしらった意匠で、カラーは「コンペティションバーガンディ、コンペティションオレンジ」がラインナップされています。
欠品が続いていたUSA製American Performer Mustangも一部で再入荷
フェンダー・アメリカンパフォーマーシリーズのムスタングは長期欠品が続いていましたが、チラホラと再入荷が見られるようになりましたね。
これはムスタングに限らずですが、フェンダー製品で「型番にAmericanと入っているモデル」は基本的にカリフォルニアUSA工場製であることを示しています。
アメリカンパフォーマー・ムスタングの前身となったのは「American Special Mustang」といって2013年に発表されたモデル。
ただし、そちらは「ストップテイルピース仕様かつハムバッカーピックアップを搭載」したモダンな装いでした。
2018年から登場した本製品に関しては、セレクタースイッチこそ3wayですが、よりオーセンティックなコンセプトのムスタングに回帰しているのが評判ですね。
「モダンCシェイプのネックグリップ、9.5インチR指板、ジャンボフレット」によるストレスのない演奏性を獲得しており、端的にいうとバキっとしたパンチのある音色になりやすいです。
Yosemite(ヨセミテ)ピックアップは、エンジニアの巨匠ティム・ショウらによって新開発されたもので、良好なピッキングレスポンスと解像度の高いサウンドが好評を博しています。
ショップによって、国内正規価格より高値が付いている場合があるのでご注意ください。
アーティストモデル特有のイレギュラーなムスタング2機種の特徴
ここまで一般的なムスタングモデルは一通りご紹介しました。ただ「正統派では物足りない」「さらに一癖あった方が愛着が沸く」という方もいらっしゃるでしょう。
以下、アーティストモデルのムスタング2製品のご紹介をしていくので、この機会にチェックしてみてください。
ストラトとムスタングを融合させたCHAR MUSTANGの発送が斬新で面白い
2019年に発売されたMade in JapanのChar Mustangは、日本にムスタング人気を定着させた第一人者である竹中尚人氏の新しいシグネチャーモデルです。
かつて2012年に登場したフェンダーカスタムショップ製の「Charフリースピリッツ・ムスタング(御召茶色)」という機種があるのですが、本製品は新たに別路線で設計開発されたオリジナルモデル。
なんとストラトキャスタースタイルのシンクロナイズド・トレモロを組み合わせてしまったChar(チャー)さんらしい遊び心のある一本です。
何度見返しても、ムスタングの裏側にトレモロスプリングのキャビティがあるのは新鮮。
ブリッジだけでなく、ボリュームコントロールの配置やピックガード形状まで、「ストラトと大胆に融合させてしまうアイデア」が反映された専用デザイン。なかなかに天邪鬼なモデルといえるでしょう。
ショートスケールにも関わらず、テンション感があって低音弦までしっかり鳴ってくれると評判だね。
アッシュボディのBen Gibbard Mustangは珍しいチェンバード構造で製作
最後は2021年春から発売されているアーティストモデル。ベン・ギバード・シグネチャーモデルのムスタングについてチェックしてみましょう。
これまで8回に及ぶグラミー賞ノミネートの評価を受けているBen Gibbard。モデルはMEXICO工場製でサインプリントはヘッド裏にあります。
ベン・ギバード本人がツアーで愛用しているムスタングにインスピレーションを受けたもので、本製品に関してはチェンバード構造で軽量化、かっこいい木目のアッシュボディが最大の特徴でしょう。
ピックアップ特性も実機をもとに設計されていて、ボディ内に空洞を設けたことによる奥行きのある響きが美しいよ。
写真で見ただけでは分からないと思いますが、じつはテールピースが固定されており、従来型のムスタングより安定したチューニングとタイトなサウンドを実現することに貢献しています。
そして、スライドスイッチ(フェイズスイッチ)は付いていないうえに、トーンノブがダミーで「ロータリスイッチ方式のピックアップセレクター」となっているのも彼のこだわり。
ピックガードとのコントラストがあるナチュラルカラーで、近年は稀少になっているアッシュ材の木目が映えるムスタングになっていますね。
まとめ
以上、ハードテイル仕様、ヴィンテージ路線、アーティストモデルと順番にムスタング現行モデルの特徴を比較ご紹介してみました。
ムスタングボディの仲間ではスクワイヤー・パラノーマルシリーズ・サイクロンが2021年9月から発売されています。
「ストラトキャスター風ピックアップ、ジャガー風コントロール、24.75インチ・ミディアムスケールネック」を組み合わせ。ムスタングのバリエーションとしては異色ですが見かけた際にはぜひお試しください。
なお、2021年4月13日発売のギターマガジン5月号では「ムスタング偏愛。」という特集記事がボリュームたっぷりの力作で話題になりました。
Kindle Unlimited会員なら電子書籍のバックナンバーが追加料金なしで読めるので、フェンダー・ムスタングに興味のある方は楽しめると思います。
以上、最後までご覧いただきありがとうございました。