今回はちょっとしたコラムのような内容です。アコースティックギター弦で「ブロンズ弦とフォスファーブロンズ弦での音色の違い」を即答できますか?
インターネットで検索したら「フォスファーブロンズ弦の方が明るくてきらびやかなサウンド」だと書いてあった。
でも「弦パッケージやメーカーのチャート表示では逆になっていた」みたいな経験がないでしょうか?
本記事では、そのアコギ弦(巻弦)についてのテーマで解説してみたいと思います。
ブロンズ弦は「ブロンズじゃなくてブラス」と呼ぶのが正しい?
まず、予備知識として「ブロンズは青銅のことで銅と錫(スズ)の合金」という解説を見つけたら注意しましょう。
揚げ足を取るわけではないのですが、ギター弦のブロンズ巻き線は銅とスズではなく、銅(Copper)と亜鉛(Zinc)の合金です。すなわち本来は「ブラス(真鍮・黄銅)」なんですよね。
ブラス(Brass)は、ギターのナット部分やブリッジピンなどに使われることがあるので馴染みがあるでしょう。
「ブロンズ弦」というのは慣用表現として定着しており、素材が「青銅」でなくても「ブロンズ像」「ブロンズメダル」と言うときの感覚に近いでしょう。
ニッケルと銅を配合した「モネル」も戦前から有名ですが、アコースティックギター弦ではとりわけ銅と亜鉛の配合比率に由来する名称の「80/20ブロンズ」がポピュラー。その歴史は1930年代まで遡ります。
一方で、フォスファーブロンズ(Phosphor Bronze)弦はダダリオ(D’Addario)社から1974年に発売されてから一般に普及していったというのが通説です。
こちらに関しては銅(Copper)と錫(Tin)の合金で、ごくわずかなリン(Phosphorus)を含んでいるのが特徴。
はじめにリン青銅を採用したのは、もともと「弦の持ち・劣化を改善すること」が目的だったと言われています。
アコギのフォスファーブロンズ弦では銅の割合がブロンズ弦より高く、「92%が銅、8%が錫、リンが微量」という褐色を帯びた組成が定番です。
比重は銅Cuが8.96g/cm3、亜鉛Znが7.14g/cm3、すずSnが7.3g/cm3なんだって。
日本と海外ではブロンズ弦とフォスファー弦の音色が正反対?
ここで「ブロンズ弦とフォスファーブロンズ弦で、どちらが明るいサウンドですか」という話題に戻りましょう。
現状、インターネット検索やSNS上にある日本語の口コミ、雑誌や教則本などを読んでみると、「フォスファー弦のほうがブライトだ」と書かれていることが多い印象です。
よく見かけるのが「ブロンズの方が素朴で落ち着いた音、フォスファーの方が金属質でブライトな響き」といった言い回しだね。
しかしながら欧米では、むしろ「ブロンズ弦の方がブライトだ」と表現されている機会が多いんですよね。
みなさん市販されているダダリオ弦のパッケージを裏面まで見たことはありますでしょうか。
画像の文字が小さいかもしれないですが、じつは簡単なトーンガイドがあって、最もブライトなのが80/20ブロンズ、続いてニッケルブロンズ。フォスファーブロンズは結構メロウな側のカテゴリーになっています。
NANOWEBのエリクサー弦に関しても、80/20ブロンズがBRIGHT&FOCUSED、フォスファーブロンズがRICH&FULLと記載されていますね。
それから、アーニーボール国内公式向けに現地サイトから翻訳されているのが下記のような表現です。
ブロンズ弦はブライト、フォスファーブロンズ弦はよりウォーム(中略)といった具合に、トーンの特性も素材によって様々です。
引用元:https://www.ernie-ball.jp/guitar-strings/acoustic-guitar-strings
実際にGoogle USAなどで検索してもらうと、英語圏では「ブロンズ弦がクリスピーでブライト、前に出るサウンド」で「フォスファーブロンズ弦がダークでふくよかなサウンド」というのが常套句となっています。
何だか「日本と欧米で評価が正反対」に見えてモヤモヤしてきましたね。
ブロンズ弦とフォスファー弦の弾き比べ動画で考察してみる
こうなったら実際にギター弦の音を聞いてみるのが早いでしょう。
Youtubeにアップロードされているアコギ弦の比較動画として有名なものは下記。
ユタ州ウェスト・バウンティフルに拠点を置くCleartone Stringsによる投稿でして、もともとEverly Music Companyのもと設立されたブランドです。
他社製品のOEMやMartin社に独自のコーティング技術が採用された歴史もあります。
「ブロンズ弦とフォスファーブロンズ弦を比較してみた」系の動画は日本語でもいくつか見つかるので聞き比べてみてください。
録音/視聴環境もそれぞれ、個人差や文化の違いによる聴覚・聴力も異なると思いますが、レビュー内容やコメントを諸々見てみるとどうでしょう。
最近はDAWで簡易的なスペクトラムアナライザを使った経験がある方も多いはず。複数の弦が鳴っているときはもちろん、単弦・単音でも音色には異なる帯域の倍音成分があります。
それこそ同じフレーズでも
「どの帯域を一塊として、どこの部分にフォーカスして聴いている?」「タッチの強弱で強調される帯域が違う?」「メロウな響きとの対比で明るいと言っている?」「どこの成分に明るさを感じているか人によって違う?」
といった観点で何度か聞き返してみると、ずいぶん興味深いです。
アタック音からサスティーンの減衰まで、どの音を聞くか意識してみよう。
種類/メーカー | ギブソン | エリクサー |
80/20ブロンズ弦 | bright, crisp tones | a bright, bell-like tone |
フォスファーブロンズ弦 | ultimate clarity and warmth | a tone with both warmth and sparkle |
上記は各社製品の説明文ですが、このあたりもニュアンスの参考にしてみてください。
まとめ:実際に自分のギター環境で試してみるのがベスト
巻き線がブロンズかフォスファーブロンズかというのはギター弦の音色に影響するひとつの要素。
他に弦のメーカーや品番ごとに、素材、製法、コーティングの有無、プレーン弦側の仕様等々が異なり、劣化したときの音質変化も様々です。
楽器の種類・サイズ、演奏スタイル、マイキングによっても聞こえ方が違うよね。
ただ、こうしておさらいしてみると、日本では「フォスファー弦=明るい音」だと表現する機会が多いので、そのように定着している側面はあるかもしれません。
「ブロンズ弦=明るい音」といっても何ら問題はないですし、何をもって「明るい」と感じて表現しているかが人それぞれ結構違う印象があります。
あとは見落とされがちなところで、同じゲージでも巻き線の種類でわずかにテンションが違うことを補足しておきます。
ゲージ/テンション | ダダリオEJ11(ブロンズ) | ダダリオEJ16(フォスファー) | エリクサー11052(ブロンズ) | エリクサー16052(フォスファー) |
.012 | 23.36 | 23.36 | 23 | 23 |
.016 | 23.31 | 23.31 | 23 | 23 |
.024 | 29.24 | 30.06 | 29 | 30 |
.032 | 29.01 | 29.93 | 30 | 30 |
.042 | 27.46 | 28.93 | 28 | 30 |
.053 | 24.04 | 24.95 | 25 | 26 |
TOTAL | 156.42 | 160.52 | 158 | 162 |
弾き心地は指先との摩擦が影響するので一概に言えないですが、上表の他にはマーチンSP弦(芯線錫メッキ)のライトゲージ(.012-.054)だと、ブロンズ弦のMA140セットが167.3lbs、フォスファーブロンズ弦のMA540セットが168.5lbsとなっています。
近年はどちらかといえばフォスファーブロンズが人気だと思いますが、「ファスファーブロンズの音が嫌い」と言う声もちらほら耳にします。
「ストローク派なら~」「フィンガーピッキング派なら~」「ボディサイズがこうなら~」といった選び方に執着しすぎず、ぜひ先入観なしで自分のギターとの相性・好みを体験、吟味してみてください。
以上、最後までご覧いただきありがとうございました。