記事をご覧いただいている左利きのみなさん。最初のギターを選ぶ際に考えないといけないことがあります。
それは「左利き用のギターを買うか、右利き用のギターを買うか」の選択です。
「え?左利きならレフティ用を選べばいいんじゃないの?」
と思うかもしれません。
じつは「(左利きの場合も)左用でなく右用で始めた方がいい」とアドバイスをする人もたくさんいるんです。
「利き手が左ならどうするべきか」断言するのは難しいけど、いくつか判断材料があるんだよね。
以下の解説ではエレキギターでもアコースティックギターでも参考にしていただけると思います。楽器店員視点でギター初心者の方向けに情報を整理してみました。
予備知識:右利き用ギターと左利き用ギターの違いを見分ける
そもそもの予備知識として「右利き用のギターと左利き用のギター」は何が違うのか。
最初にエレキギターの製品画像で見比べてもらうのが直感的に分かりやすいでしょう。
まるで鏡に映したように楽器形状・コントロールノブの配置まで左右反対になっていますね。
どちらも構えたときに低音弦(太い弦)が指板上側に、高音弦(細い弦)が指板下側にくるのが基本です。
ためしに下調べで「何本かレフティのギターを検索してみようかな」というときは、
製品名の欄に「Left Hand」「Left Handed」「Lefty」といった語句、もしくはそれを省略した「L」「LH」の表記がある商品
を探してみましょう。表記揺れによって検索にヒットしないことが多いのでご注意ください。
通販サイトによっては、オプション項目でカテゴリを絞り込めたり、「右利きモデルのページに左利きモデルへのリンク」が置かれていることもあります。
「左利きでもレフティモデルは避けた方が良い」派の見解
さて、それでは「左利き用のギターを選ぶなら気を付けておきたいこと」から確認していきます。
悩みのタネとして、よく挙げられるのが「楽器を探すのが大変、序盤の練習で苦労するかもしれない」というところです。
事前に知っておいたほうがいい「デメリット」を以下で少し掘り下げて予習してみましょう。
左利き用のギターは在庫が少なくて購入候補を探すのが大変
「左利き用のモデルを探すのに苦労する」のは、楽器に限ったことではないので想像しやすいでしょうか。
レフティの場合、生産本数が少ないうえに、メーカー希望小売価格が割高に設定されていることもしばしば。
そして「仮に左利き仕様が生産されていても、ショップの店頭に並んでいるかどうかは別問題」となります。
ギター初心者向けのモデルに関しては、他価格帯に比較して「左利き用」がラインナップされていることが比較的多いです。
それでも楽器店の品ぞろえは売れ筋アイテムが中心になるので、どうしても左用の店頭在庫は少なくなりがち。
エレキギターもアコースティックギターも、長く弾き続けていと、いずれ用途に応じて買い替えたり買い足したくなります。
そのときに、自分が欲しい機種が手に入らない葛藤が生じやすいんですよね。
友人のギターを借りれない、スタジオなどのレンタル品を弾けないことにも苦労するみたいだね。
具体的にどのくらいの温度感かというと、1,000本以上のギターを展示している大型楽器店であってもレフティは全体の1%~2%程度しか扱っていない状況が珍しくありません。
「店頭にないなら、メーカーから取り寄せてもらえばいい」という際にも注意は必要。
メーカー側も決して潤沢にストックしていないのと「楽器店の取り寄せは基本的に購入が前提」になります。
レフティの取り扱いを強化しているショップも存在しますが限られた立地のみ。あいにく試奏して比較できる本数はわずかしかない楽器店がほとんどです。
レフティのギタリスト向けに解説された入門コンテンツが少ない
もうひとつ少々悩ましいのがギター初心者がレフティで練習するハードルの高さです。
スポーツなどで同様の経験があるかもしれませんが、試しにビギナー向けの教則本やレッスン動画などを軽く見てもらうのが早いでしょう。
「むしろレッスンで向かい合って対面になったとき見やすい」「利き手として使い慣れている左手は、器用なので押弦が有利」という方もいるので絶対ではありません。
しかし、サウスポーだと写真・説明を都度左右反転して考えないといけないので、多かれ少なかれ解釈がややこしくなるんですよね。
具体例として、コード(和音)やスケール(音階)を学ぶ際に頻出するダイアグラム(下記表紙にあるギター指板の図式化)というものがあります。
「五線譜の楽譜」「単音のTAB譜」ならあまり不便はないですが、ダイアグラム形式の譜面ではローポジションとハイポジションの位置関係を逆さに読む必要があって厄介に感じるかもしれません。
左利きだとギターの持ち方が反対。左利き用のコードブックは手に入るけどメジャーではないね。
「左利きならレフティモデルを選んだ方が良い」派の見解
以上のように、左利きの人ならではの苦労はありますが、それでも「レフティモデルのギターを選ぶメリット」は何でしょうか。
続いて「左利きなら楽器も左利き用を選ぶべき」という視点から代表的な主張をまとめてみました。
レフティの楽器を持っているだけで目立つし格別にかっこいい
「わざわざ書く必要ある?」と思われるかもしれませんが、ギター歴が長くなると実感する機会が増えるはずです。
レフティのギタリストは、とにかくかっこいいと一目置かれる風潮があって、その程度が他ジャンルより顕著ではないでしょうか。
端的に「少数派ゆえに目立つ」という側面だけでなく、本記事の後半でも触れていますが、ロックギター史に残る左利きギタリストの功績、カリスマ性・影響力が広く認知されています。
左利きのギタリストに憧れて、もしくはコピーバンドの再現度を上げるため「右利きでも、あえてレフティを弾くようにした」プレーヤーもちらほら。
左利きだったのを矯正して右用のギターを弾いていると、「せっかく左利きなのにもったいない…」と他意なく言われたりします。
バンド活動で目立つ、SNS界隈でも周囲の記憶に残りやすいのは間違いないね。
ギターの演奏はピッキングやストロークする腕側のニュアンスが重要
ギターの演奏面で、ピッキングやストロークする側の手は強弱のニュアンス、リズムに直結します。
レフティなら左腕のほうがコントロールしやすくて有利、利き腕のメリットだと強調する声は少なくないです。
その一方で「これからギターを始める段階なら別に気にしなくてよい」という意見も多数。
利き手の度合いも人によって違うので、どちらが有利/不利を一律に判断するのは正直難しいところでしょう。
レフティの方は日頃の習慣から、既に「両利き」に近かったり「クロスドミナンス」(交差利き、分け利き)の人もいますよね。
「慣れ」の部分も大きいですが、以下に挙げる「よくある質問」「有名なプロギタリストの事例」についても合わせて参考にしてみてください。
よくある質問:右利きのギターを左用に改造できないの?
右利き用のギターを左利き用に改造できないの?というお問い合わせに関して見ておきましょう。
たいていは、リペアショップに依頼してナットとブリッジサドルを交換or調整すれば、弦を逆に張ることができます。
ただ、注意点はあって「そもそもギター本体が左右対称ではない」問題が重要です。
たとえば上画像のストラトキャスターでは、「ストラップピンの取り付け位置」を短いホーン側に変更しています。
しかし、そもそもカッタウェイ形状・コントロール・ジャック・ピックガードの位置等は非対称のままだと気付きましたでしょうか。
ストラトだとケーブルとかコントロールノブが利き腕にあたって弾きにくいよ。
また、正面から見えない部分でも、ネックシェイプやアコギのブレーシング(力木)などの木部設計、ピックアップやポットといった電装系パーツも影響があります。
レフティへの改造(コンバージョン)というのは、決して珍しくない事例ですが「改造さえすれば純粋なレフトハンドモデルに生まれ変わるわけではないこと」は覚えておきましょう。
有名なプロの左利きギタリストに学ぶ事例4パターン
これは時代背景も影響するのですが「右利き用を使うか、左利き用を使うか」というだけでなく、「楽器の構え方・演奏方法に様々なパターンがある」ことを紹介しておこうと思います。
各ジャンルで屈指、著名なプロギタリストの面々なので、気になるプレーヤーがいれば、ぜひ演奏シーンの動画を研究してみてください。
1.もともと左利きなのに難なく右利き用を弾いているギタリスト
一般的に日常生活では左利きだと言われているけれど、ギターを演奏するときは右利き用の楽器を使うプレーヤーの方々。
これは多すぎて書ききれないのですが、大御所だとマーク・ノップラー、ゲイリー・ムーア、キコ・ルーレイロ、ハーマン・リー、ビリー・コーガン、ノエル・ギャラガーが有名でしょうか。
「左利きなのに右利きで弾くようになったギタリスト」として、竹田和夫さんや、INORANさん、小原莉子(こはらりこ)さんも挙げられます。
まるで違和感がないので、今これを読んで「左利きの人だったのを初めて知った」という方もいるかもしれません。
利き腕側でのヴィブラートやベンド(チョーキング)が特徴的だと取り上げられることがあるよ。
2.右利き用の楽器を左利き用に改造して弾いているギタリスト
右用のギターを左用へ改造するパターンでは、とにかく最初に名前が挙がるのがジミ・ヘンドリックス。
彼は父親から右手を使うように指導を受けたそうですが、最初のギターの時点で既にナットを交換して弾いていたそうです。
レフティ仕様に改造されたときのピックアップ・レイアウトや弦テンションの違いなどは、ジミヘンサウンドと深い関係があり。
右利きのプレーヤーでも、ジミヘンへのリスペクトから「リバースヘッド仕様」(下記参考)にこだわったギター選びをしている人もいます。
3.レフティ用に製作された楽器をメインで弾いているギタリスト
いわゆる左利き用のギター、あらかじめレフティ向けに製作された楽器を使っているプレーヤーについて整理してみます。
これは少々表現が難しくて、彼らは時に(ジミヘンのように)右利き用ギターの弦を張り替えて使うこともあります。
「左利き仕様があればそちらの方を使う」「ヴィンテージのようにレフティが手に入りにくいものは改造して使う」
というニュアンスに捉えてください。
ポール・マッカートニー、トニー・アイオミ、アル・マッケイ、カート・コバーン、エリオット・イーストン、ティム・アームストロングは日本でも知名度が高いでしょう。
ニルヴァーナのカート・コバーンは、食事やペンを持つのは右手でギターが左手だったそうですね。
4.右利き用の楽器を無改造のままで逆さに構えているギタリスト
あとは最後に少々イレギュラーなところで、「フィンガリング(運指)を上下逆にしているギタリスト」がいることについても触れておきましょう。
ギター初心者の方には想像がつきにくいでしょうし、正直おすすめしはにくいです。
「右利き用のセッティングを変更せず逆さに構えて弾く」もしくは「左利き用のギターでもあっても弦を反対に張っている」ことになります。
アルバート・キングや、オーティス・ラッシュ、ディック・デイル、ドイル・ブラムホール2世、エリック・ゲイルズ、松崎しげるさんといった面々が筆頭格。
前項までに挙げたギタリストの中にも、この「右用のギターを左で弾く」スタイルで演奏できてしまう人は見かけますね…。
「右利き用のギタリストからギターを貸してもらったとき上下をひっくり返して弾ける」ということです。
ダウンストロークとアップストロークの鳴り方も反対になりますが、右利きの楽器店員が接客でレフティのギターを弾くときもその逆パターンが多いです(下画像)
ピックガードやカッタウェイの位置だけでなく、一番太い6弦のほうが下側にあるね。
まとめ
以上、レジェンド級のギタリストにも色々なパターンがあり、一旦迷い始めたら延々とモヤモヤしてしまうかもしれません。
- レフティの楽器だと、後々苦労しそうだから右用で練習をはじめようかな
- 右手では弾ける気がしないし、使い慣れている左手のほうが上達が早そう
ある程度経験を積んでみないと向き不向きが分からないのも事実。
私の周りにも「最初は右用を買ってみたけど左用に変更した人」「最初は左用を買ってみたけど右用に変更した人」が両方いました。
あまり情報が増えても悩んでしまうと思いますが、俯瞰的な検討材料があるに越したことはないと思うので、そういった部分で本記事がお役に立てば幸いです。
最後までご覧いただきありがとうございました。
楽器店勤務時代の経験上、レフトハンドモデルをコレクションしている方の多くは通販メインで購入していたり、自分で海外ショップから輸入したり…。
あとは工房などでカスタムオーダーしている方の比率が高かったですね。