「手が小さい自分はギターの演奏に向いていない?」「小柄な女性はボディが大きいと弾きにくい?」
身長や腕の長さ、手の大きさ・指の長さは人それぞれなので、「楽器の上達スピードに影響するのではないか」「人より挫折しやすくなるのではないか」と不安につながりやすい要素ですよね。
じつはそういった心配が出てくるのも当然。なぜならエレキギターもアコースティックギターもルーツを辿ると欧米メーカーのデザインから影響を受けた製品がほとんどだからです。
ということは「慣れ」で解決することは多いとはいえ、楽器のサイズに悩みが出てくるのはもっともだね。
本記事では少しでも初心者に弾きやすくて、挫折しにくいモデルを探そうという際のチェックポイントを楽器店員視点でお話してみようと思います。
手が小さい人はギターのネックデザインについて調べてみよう
楽器店に勤務していると「手が小さくてもギターは弾ける?」「指が短いとギターは弾けない?」と質問される機会が何度もあります。
「コツコツ練習すれば柔軟になるし弾き方次第、ギター演奏に手の大きさや指の長さは関係ない」と言われても、手が小さいこと・指が短いことが原因で苦戦しやすいのではないかと心配になる気持ちはよく分かります。
上図のように右利き用のギターは右腕で挟み込む部分が「ボディ」という名称で、左手で握り込むグリップ部分の名前を「ネック」といいます。
「手が小さい」「指が短い」と悩んでいる方は、ネックの仕様について基礎知識を身に付けてから、自分にとって弾きやすいギターを選んでいくステップがおすすめです。
ネックの長さはギターのモデルごとに設計寸法が違っている
ギターのネックまわりのスペック(仕様)について予習するために、少しだけ名称の説明をしておきましょう。
下写真で実際に指が触れている面を「指板(しばん)」と呼び、「フィンガーボード」や「フレットボード」も同義です。
そして、指板には半音刻みで音程をコントロールする役割を持つ金属の「フレット」が打ち込まれています。
ここで解説しておきたいのが、フレットが配置されている間隔・距離がモデルによってずいぶん異なるということ。ネックの長さがモデルによって違うのです。
カタログのスペック欄で「弦長」(げんちょう)もしくは「スケール」という項目だね。
「指の長さ・太さ」や「指の開き具合」に個人差があるなかで、スケール(弦長)が短いとフレット間隔が狭くなる分、運指(うんし)が容易になり、和音(コード)を押さえる難易度は下がります。
ということは、手の小さい人は、レギュラーサイズのギターでも「ネックスケールが短めのモデル」を軸に探してみる選択肢があるということ。
「手が小さい→ミニギターにしようかな」と考えている方もいるかもしれませんが、レギュラーサイズのギターの中でも長短あることを知っていただければと思います。
また、同じ種類の弦を選んでいるのであれば、スケールが短いほど弦の張力(テンション)は弱まるので女性の方など特に押さえる力が少なくてすむメリットがあります。
楽器全体のセットアップ精度、弦高(げんこう)も弾きやすさに影響してくるよ。
ギターのネック仕様(スケール)について、もう一段階、具体的に見てみましょう。
エレキギターの場合、「ロングスケール(レギュラースケール)、ミディアムスケール、ショートスケール」といった区分が基準として一般的です。
メーカーごと採用している規格の違いこそありますが、それらの中から「短めの仕様」を優先したギター探し方をしてみるのは手が小さい人にとって有効な選択肢になります。
種別 | インチ表記 | ミリ表記 |
ロングスケール | 25.5インチ | 約648mm(もしくは約324mm) |
ミディアムスケール | 24.75インチ | 約628mm(もしくは約314mm) |
ショートスケール | 24インチ | 約610mm(もしくは約305mm) |
たとえば、フェンダーの「ムスタング」というエレキギターは、24インチ・ショートスケールを採用していることで有名な機種(下記が参考記事)
また、ギブソンやエピフォンの製品では24.75インチ・ミディアムスケールが多く、「ストラトキャスターやテレキャスターで標準的な25.5インチ・ロングスケール」より少し短いです。
アコギ(アコースティックギター)の場合は、約645mm~約650mmを標準的な弦長とする見解が一般的でしょう。
人間の指先の感覚はとても繊細なので、ごく数センチの違いがあなどれません。上記で紹介しているヤマハの入門モデルや「FSシリーズ」は、それより短い634mmのスケールとなっています。
手が小さい人向けにおすすめのアコギとして、630mm前後のスケールは候補にしやすい仕様ですね。
もちろんネックの太さもギターの弾き心地に影響が大きい
続いて、手が小さい人でも弾きやすいネックシェイプについて考えてみましょう。「エレキギターはネックが細くて、アコースティックギターはネックが太い」イメージがあるかもしれません。
実際そういう傾向はありますが、必ずしも一概にいえないケースがしばしばあります。数字で判別しやすい表記として、カタログでナット幅(ネック左端部分の幅)の項目は忘れずに確認してみましょう。
経験を積むにつれてプレイスタイルで好みが分かれるものの、手が小さい人用のギターを探すという視点では「ナット幅が狭いタイプ」を選んだ方がストレスは少ないです。
ギターのナット幅は42mmから44mmくらいが標準的だね。
具体例を挙げると、ヤマハ・パシフィカのエレキギターはナット幅が約41ミリでやや細身の分類。わずか数ミリの違いで握り心地がずいぶん変わってくる部分となっています。
ネックシェイプ(グリップ)についてはメーカーそれぞれが独自の呼称を採用しています。
ブランドごとに表記が異なるので厳密な比較が難しいですが、ギター選びの際は「スリムネックで握りやすい」と謳われているモデルを優先的に探してみるのがいいでしょう。
フェンダーのアコギ(エレアコ)はエレキ感覚に近いネックシェイプが弾きやすいと評判が良いですね。
ちなみに「ネックが細い」といった表現をひとつとっても、感覚には個人差があり、同型番の楽器にさえ個体差があることを補足しておきます。
上述したナット幅だけでなく、エッジの処理、ネックの厚み・太さが組み合わさって「ネックが細いか太いか」という感じ方は人それぞれで変わってくるはずです。
カタログスペックはもちろん参考になるものの、あくまで目安であることを忘れないようにましょう。
体格が小柄な方はギターのボディシェイプについて考えてみよう
ここまでは「手の大きさ」に着目してネック周りから説明してきました。
せっかくの機会ですので、最初の一本だと意外に盲点になりやすい身長や体格に合わせたボディシェイプも吟味してみましょう。
楽器本体部分(ボディ)の寸法をカタログに明記しているメーカーは限られますが、厚みと幅、重量によって演奏のしやすさに顕著な差が出てくるところです。
あまり神経質になってしまってもキリがないですが、わずかなデザインの違いで「大きめに感じる」「小さめに感じる」といった数字に表れにくい違いを生む側面があります。
特にネット通販で入門用ギターを探すシーンなどで心に留めておくといいでしょう。
ギター本体のデザインにはボディサイズの大まかな分類がある
楽器サイズの名称について、ぜひこの機会でいくつかの用語を覚えておきましょう。
アコギの場合は「ジャンボサイズ、ウエスタンサイズ、ドレッドノートサイズ」といった分類が大きめのシェイプだということ。
小柄な方だと右腕を回すのに肩が持ち上がってしまい少々辛いかもしれません。
もちろん「それらを選ぶことがダメではない」ですが、「フォークサイズ、トリプルオーサイズ、グランドコンサートサイズ」等の分類が小さめで扱いやすい傾向です。
上記アイバニーズの「パフォーマンスシリーズ」では、その双方のボディデザインがラインナップされているので見比べる際の参考にしてみてください。ネックシェイプも弾きやすいです。
アコギはボディが大きい方が音量が大きく、低音の成分も出やすい特性があるね。
エレキの場合、ボディ設計の自由度が高いのでバリエーションが多岐に渡ります。とはいえ、アコギより「幅・厚み」が小ぶりな機種がほとんど。
エレキギターなら「セミアコやフルアコという種類を選ぶ場合、サイズ感に気を付けたほうがいい」くらいの温度感でしょうか。
製品名をいくつか挙げると、ストラトキャスターのように「滑らかな曲面仕上げのコンタードデザイン」なのか、テレキャスターのように「フラットにエッジが角張ったデザイン」なのかは好みが分かれます。
ボディデザインはギター全体の重量に関わってくるポイント
最後に「ギター重量」についての話ですが、アコースティックギターだとボディ内部が空洞になっているため大差がないと考えて大丈夫です。
その一方で、エレキギターは、ボディに空洞が少ない「ソリッド構造」が主流のためデザインおよび、木材の種類による個体差が出やすいです。
ネット通販だと重量を基準に選ぶのが少々難しいですが、店頭購入を予定しているときには、「ぱっと見で似たように見えるモデル」でも実際の個体を持たせてもらうことをおすすめします。
座って弾く分には平気でも、ストラップを付けたら重くてしんどいと思う場合もあるよ。
「重たいエレキギター」として有名なギブソン/エピフォンのレスポール。近年はウエイトを調整しているモデルが増えましたが、より一層薄型で軽量なSGモデルと比較してみるのも定番の選択肢でしょう。
ギターの選び方次第で序盤のハードルを下げられるという考え方
以上、ネックやボディ周りの仕様に着目してギター入門者向けに解説してみました。
言わずもがな、プロのギタリストでも手が小さい人や小柄な人はたくさんいます。
大人向けのギターを難なく弾きこなしている子供もいるので、こだわり過ぎずとも慣れたら気にならないかもしれません。
「手が小さくて弾けない」といっても、じつは弾き方、ポジショニングの問題であったり、練習不足であったり…というケースはよくあること。
ただ方法論として、本記事でご紹介したような「序盤のハードルを下げる選び方」には多少のコツがあることを知っていただければと思います。
レギュラーサイズのギターで挫折してしまうのが不安なら「ミニギターを試してみる」のも選択肢。フルサイズに持ち替える際にあらためて練習が必要になりますが検討してみる価値はありです。
最後までご覧いただきありがとうございました。